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有名映画監督一家が表現する“ホテル愛”とは 非日常の空間を疑似体験できる映画3選
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一歩足を踏み入れた瞬間から始まる非日常……世界の有名ホテルはいずれも、とっておきの時間を約束してくれます。そして、素敵な物語が始まる予感も。そんな極上ホテルのヘビーユーザーには、撮影で各国を訪問する映画関係者も挙げられます。世界的知名度を誇る監督には、ホテル暮らしの“プロ”も多数。中でも米国のフランシス・フォード・コッポラ監督は、自らオーナーになってしまうほど“ホテル愛”が強い人物です。さらに娘のソフィア・コッポラ監督も、ホテルが登場する作品で高い評価を受けました。海外渡航の制限により海外ホテルライフは当分おあずけの状況ですが、コッポラ一家の娘ソフィアと妻エレノアの作品を通じて、その“ホテル愛”を疑似体験してみましょう。映画ジャーナリストの関口裕子さんがナビゲートします。
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高級リゾートホテル6軒のオーナーでもあるコッポラ家
子どもの頃に身についた習慣は、大人になっても抜けないもの。映画監督の親とともに世界各地で暮らした経験を持つソフィア・コッポラの映画には、そんな彼女が少女時代に経験した“ホテル暮らし”が如実に現れているように思う。
「映画を製作する場合、最低でも半年、場合によっては1年その土地に滞在する」と言ったのは、『ゴッドファーザー』3部作や『地獄の黙示録』(1979)などの監督として知られるフランシス・フォード・コッポラ。ソフィアの父親だ。
フランシスとその家族は、米国国内はもとより『ゴッドファーザー』の撮影ではイタリア、『地獄の黙示録』の撮影ではフィリピン、資金調達では日本、映画祭ではフランスのカンヌ、イタリアのベネチアと世界各国を飛び回る生活を続けてきた。その中には気に入って別荘を購入した地も。それをのちにホテルとして営業することを続けたため、コッポラ家は現在、5つの高級リゾートホテルのオーナーでもある。
最初に所有したホテルは「ブランカノー・ロッジ」。場所は『アウトサイダー』(1983)などヤングアダルト3部作の頃、脚本執筆のために訪れた中米のベリーズだ。ベリーズの自然の美しさに魅了されたフランシスは、妻エレノアとともにジャングルの中にロッジを購入して、別荘へと改装した。
6つのホテルの内で最も思い入れの深いのが、イタリアの「パラッツォ・マルゲリータ」。ホテルのあるベルナルダがフランシスの祖父の出身地であることと、ソフィアが現在の夫で「フェニックス」のボーカル、トーマス・マーズと結婚式を行った場所だからだ。
どのホテルの空間作りも、家のようにホテルで暮らしてきたコッポラ家が行っている。「ホテルを作ることは映画製作と似ている」とフランシスに言われてしまうと、そのこだわりを一度は目の当たりにしてみたくなる。
コッポラ家にとってのホテルは、我々の考える場所とはずいぶん異なるようだ。その一端をソフィアの監督した映画に垣間見ることができる。現在の彼女は、米ニューヨークのウエスト・ヴィレッジを拠点に、フランス・パリでの活動を中心とする夫の家とを往復して暮らしているようだ。その2拠点生活はまたソフィアの娘2人に新しい習慣を与えているのかもしれない。