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カルチャー

有名映画監督一家が表現する“ホテル愛”とは 非日常の空間を疑似体験できる映画3選

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

『ロスト・イン・トランスレーション』:「パーク ハイアット 東京」(東京都新宿区)

 ソフィアがホテルを舞台に描いた作品といえば、まず思い浮かぶのが『ロスト・イン・トランスレーション』(2003)。言葉の通じない異国の地で知り合った、年齢も立場も違う男女の孤独な魂が寄り添う数日間を描くプラトニックなラブストーリーだ。

 舞台になるのは、新宿の5つ星ホテル「パーク ハイアット 東京」。24歳の頃、ファッションブランド「ミルクフェド」を立ち上げたソフィアは日本にも直営店を展開し、年に1度は来日していたという。本作は、その時に見た色とりどりに光るネオンサイン、ハリウッド俳優が出演するコーヒーやビールなどの広告ビルボード、派手なカラオケバーなどにインスピレーションを得て作られた。

 カメラマンの夫ジョン(ジョバンニ・リビシ)に同行して来日したものの毎日ホテルに1人残される妻シャーロット(スカーレット・ヨハンソン)は、CMの撮影で来日した映画俳優ボブ(ボブ・マーレイ)と、ホテルのバーで出会う。

 シャーロットは大学を出たばかり。“妻である以外の何者でもない”という設定は、1人の人間としてよりも先にフランシス・フォード・コッポラの娘であり、最初の夫スパイク・ジョーンズの妻だと見られたソフィアのアイデンティティを刺激した記憶から生み出されたのではないか。異国のホテルに所在なく取り残されるという設定も、また幼少期の記憶に刻まれたもののように思う。

 ソフィア自身も大学中退後、最初に来日した際、宿泊したのが「パーク ハイアット 東京」なのだという。その後も繰り返し泊まったこの場所は、たぶん彼女にさまざまなインスピレーションをもたらしたはずだ。

 ブルーグレーのセーターとピンクのショーツでくつろぐシャーロットの臀部のアップから映画を始めたのもたぶんそうだ。ジョン・カセールの絵画を彷彿とさせるエロティックかつインパクトのあるファーストシーンは、シャーロットがどれだけ孤独なのかを表している。わざわざ服を着る必要がないくらい、ホテルに閉じこもっているのだと。

2004年3月、「パーク ハイアット 東京」で行われた『ロスト・イン・トランスレーション』の記者会見。右は製作のロス・カッツ【写真:Getty Images】
2004年3月、「パーク ハイアット 東京」で行われた『ロスト・イン・トランスレーション』の記者会見。右は製作のロス・カッツ【写真:Getty Images】

 本作には、ホテル内のボールルームで映画の記者会見が行われるシーンがある。実際このホテルは、さまざまな映画監督やスターの会見が行われる場所だ。米ロサンゼルスでは接点のない俳優や監督たちが、ホテル内のレストランやバーで会い、盛り上がったという映画さながらの話も聞く。

 本作の記者会見が行われたのも、もちろんこのホテル。誰かの連れではなく彼女自身として会見場に現れたソフィアは、揺るぎない自信に満ちていた。