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おせち料理と重箱に込められた意味 知らないと“福”を逃す? 祝い箸にはNGお作法も

公開日:  /  更新日:

著者:鶴丸 和子

おせちの重箱には「空」の重も存在した

おせちを詰める重箱(写真はイメージ)【写真:写真AC】
おせちを詰める重箱(写真はイメージ)【写真:写真AC】

 おせち料理を重箱に詰めるようになったのは、江戸時代の後期辺りといわれています。理由はたくさんの料理を詰められる、場所を取らず保存しやすい、客に振る舞いやすいなどいくつかあるようです。そして、“箱を重ねる”ということが「めでたさを重ねる」の意味とされ、“福が重なるように”といった縁起担ぎにもなりました。

 おせちの重箱は1段から3段が近年の主流ですが、正式には5段です。数え方は「一の重」、「二の重」、「三の重」、「与の重」、「五の重」。4段目に「四の重」ではなく「与」を使うのは、「四」が「死」を連想させるのを避けるためといわれています。

 詰める料理にも重によって決まりがあります。黒豆、数の子、田作りやたたきゴボウなど「祝い肴」と呼ばれる料理は一の重に詰めることが多く、他の重は地域によって異なりますが、海の幸などの縁起物や煮物、酢の物などをそれぞれ詰める重などがあります。

 ただし五の重は、空にしておくのが一般的です。これは「控えの重」と呼ばれ、年神様から授かった福を詰めるための場所とされてきました。粋な計らいですよね。

知らぬと恥ずかしい「祝い箸」の使い方

おせちを食べる時に用いる祝い箸(写真はイメージ)【写真:写真AC】
おせちを食べる時に用いる祝い箸(写真はイメージ)【写真:写真AC】

 おせち料理をはじめお正月のごちそうをいただく時には、習わしとして「祝い箸」が用いられます。地域によっては、お箸の真ん中が太いことから「俵箸」、両端が細くなっていることから「両口箸」、またヤナギの木から作られていることから「柳箸」とも呼びます。

 長さは末広がりの「八」から縁起を担いで「八寸(約24センチ)」で、ヤナギから作られています。これはヤナギが“丈夫で折れにくい”ため祝いの席にふさわしいことや、春一番に芽吹くめでたい木で邪気を払うと考えられてきたこともあるようです。また「やなぎ」を「家内喜」にかけているという説もあります。

 さらに祝い箸の習わしとして、大晦日に家長が家族全員の名前を箸袋に書き神棚に供えるというものも。来客用には「上」、取り分け用には「海山」や「組重」などと書きました。元旦になって使うのですが、使い終わったら自分で洗い清めて、松の内(1月7日または15日頃)まで使い続けるのが作法とされてきました。

 両端が細いのでどちらからでも使えるのですが、ひっくり返して両方を使うのはNG。どちらか片側のみで食べます。片側は自分が、使っていない側は神様が使うとされているからです。取り箸の代わりにうっかり両端を使ってしまうと、ご利益が薄れてしまうかもしれないのでご注意を。

 伝統的なおせち料理を食べる風習自体、なくなってきたかもしれません。とはいえ、古くから伝わる心は大切に受け継いでいきたいですね。今年も健やかで幸せな一年になりますように。

(鶴丸 和子)

鶴丸 和子(つるまる・かずこ)

和文化・暦研究家。留学先の英国で、社会言語・文化学を学んだのをきっかけに“逆輸入”で日本文化の豊かさを再認識。習わしや食事、季節に寄り添う心、言葉の奥ゆかしさなど和の文化に詰まった古の知恵を、今の暮らしに取り入れる秘訣を発信。
インスタグラム:tsurumarukazu