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仕事・人生

女性は転職でキャリアがゼロに…製菓の道で受けた衝撃 人気店が生まれるきっかけに

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・佐藤 直子

お菓子作りを好きでいて…仕事が重荷にならない働き方改革

 現在、芦屋にある本店では伊東さん夫妻を含む7人、工房では男性1人を含む6人が勤務。2017年に長女を出産した伊東さんの他、3人の女性スタッフが子育てをしています。子どもの有無に関わらずスタッフでフォローし合うことが、全員にとって働きやすい環境を生み出しているそうです。

「家庭を犠牲にして働くと、私自身、何のために仕事をしているのか分からなくなってしまいます。自分が大切にするものの一つとしてお菓子作りがあってほしいし、重荷になる働き方はしてほしくない。子どもの用事があったり、旅行に出かけたかったり、そういう時は『いいよ、行っておいで』と快く送り出せるように、話し合いながらお互い支え合っていければいいと思います」

 伊東さん自身、「家で子どもといる時は一切仕事をしません」とメリハリをつけています。出産後に“限られた時間で仕事を済ませる”と意識を変えたところ、生産性は以前よりも高まったとか。

「子どもと過ごす時間を削って仕事をすると、どこかでひずみが出てしまいます。なので、限られた時間の中で効率良く、おいしいものを提供するために、自分の作業スピードを速めたり、食洗機など活用できる機材をフルに使ったりしていますね。

 もう一つスタッフにも言っているのが、無駄を徹底的に省くこと。ブランク時間をなくすため、手ぶらでは移動せずに何かを取ってくる、手を洗う時はついでに洗い物を2、3個洗うように言っています」

 無駄な時間を省き、効率良く作業を進めるためにはどうしたらいいか。伊東さんは常に、頭の中で少し先の予定を思い浮かべ、逆算しながら今の行動を決めているとか。

「毎日ほぼ決まった時間にタルト型に生地の敷き込みをしていますが、冬場だったら冷凍した生地を早めに戻しておかないと作業がしづらくなったりミスにつながってしまったりします。少し先のことを考えながら動けば効率良くミスが減る。長く働いてもらうと生産性が上がるので、入店当初と今とでは動きがまったく変わっていますね」

出産前後で変わった働き方 週3日は4時間ほどの勤務時間

「スイーツは心を満たすもの、一期一会でお客様に届くもの」という伊東さんが手がける生菓子は午前中で売り切れることも【写真提供:伊東福子】
「スイーツは心を満たすもの、一期一会でお客様に届くもの」という伊東さんが手がける生菓子は午前中で売り切れることも【写真提供:伊東福子】

 出産前は早朝から深夜まで仕事一筋だったという伊東さんも、出産後の勤務時間は繁忙期を除き月曜と水曜、木曜が4時間ほど、生菓子を提供する金曜から日曜でも8時間ほどになりました(2022年1月10日から生菓子販売は木曜~土曜に変更)。

 スタッフの労働時間が長くなるのを避けるために、率先して仕事を切り上げて帰宅することも。「自分に大切な守るべきものができるとものの考え方がすごく変わって、何のために働くのかについて考えるようになりました」と語ります。

「限られた時間の中で自分がしたいことを精一杯やって、それがお客様のおいしいという言葉や笑顔につながるといいなと思います。スタッフにはお菓子作りを好きなまま、仕事の他にもやりたいことに時間を割いてほしいなと。みんなが働きやすい新しい環境を、ここから広げていきたいですね」

 スタッフ全員が“仕事もプライベートも好き”という気持ちを保ち、心が満たされる環境。「ポッシュ・ドゥ・レーヴ芦屋」のスイーツが食べる人の心に響く理由は、そうした意識と環境こそがスパイスになっているからなのかもしれません。

◇伊東福子(いとう・ふくこ)
大学卒業後に高校の事務員として働きながら、週末のお菓子教室へ通い始める。お菓子作りの魅力に取り憑かれ、仏パリへの短期留学を経てその道を究めようと決意。より高い技術と知識を学ぶため、料理学校「ル・コルドン・ブルー 東京校」に入学。卒業後は個人店やホテルで修行を積み、2009年に兵庫県芦屋で「ポッシュ・ドゥ・レーヴ芦屋」を開業した。

(Hint-Pot編集部・佐藤 直子)