Hint-Pot | ヒントポット ―くらしがきらめく ヒントのギフト―

仕事・人生

ドムドムハンバーガー“再生”の道 「人の話を聞く」姿勢で見えたブランドの未来とは

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・佐藤 直子

ドムドムが今年8月にオープンした新ブランド「TREE&TREE's(ツリツリ)」。新橋という土地柄、アルコール提供も行うハンバーガーショップを仕掛けた藤崎忍社長【写真:荒川祐史】
ドムドムが今年8月にオープンした新ブランド「TREE&TREE's(ツリツリ)」。新橋という土地柄、アルコール提供も行うハンバーガーショップを仕掛けた藤崎忍社長【写真:荒川祐史】

 さまざまな分野で活躍する女性たち……と聞くと、「自分とは異なる世界で生きている」「自分とは違う特別な人なのでは」と、まったく関係のない話だと感じてしまう方が多いかもしれません。とはいえ、「生きる」中で感じることや苦悩は、どのような立場でも存在しています。そんな彼女たちにスポットライトを当て、それぞれの人生を紐解く連載が「私のビハインドストーリー」。今回は政治家の妻として39歳まで専業主婦、その後はアパレルショップ店長と居酒屋女将を経て、現在は「ドムドムハンバーガー」などを運営する「ドムドムフードサービス」で代表取締役社長を務める藤崎忍さん(前編)です。(藤崎さんの崎は「たつざき」の「崎」)

 ◇ ◇ ◇

夫の選挙落選と病気が重なり…39歳で専業主婦からアパレル店長に転身

 コロナ禍でテイクアウト需要が増え、グルメバーガーや健康志向バーガーなど話題に事欠かないハンバーガー業界。そこで今、アツい視線を集めているのが「ドムドムハンバーガー(以下ドムドム)」です。2019年に発売した「丸ごと!!カニバーガー」は、バンズからはみ出たカニのハサミがドムドムの旗を持っているという衝撃のビジュアルと、それを上回るおいしさで世間をあっと驚かせました。

 1970年に日本最初のハンバーガーチェーンとして設立され、かつては全国に約400店舗を展開しましたが、現在は27店舗まで減少。2018年、“絶滅危機”のピンチで社長に抜擢されたのが藤崎さんでした。その経歴は異色です。

 実家は東京・下町のせんべい屋。父は都議会議員を務める政治家で、藤崎さんも21歳で年上の政治家と結婚した後は専業主婦として夫をサポートしていました。しかし、夫の選挙落選と病の発覚により、家計を支えるために働き始めたのが39歳の時。「SHIBUYA109」のアパレルショップ店長と居酒屋バイトを経験した後、新橋に自らの居酒屋をかまえました。そこでおいしい料理と接客サービスを見初められ、「ドムドムフードサービス」入りを誘われます。社長就任は入社からわずか9か月でした。

「政治家の妻として主人がステップアップする後押しをできればいいと思っていたので、私が社長になるなんて微塵も思っていませんでした(笑)」

 十数年間で人生は一変。驚くべきキャリアアップを遂げる中、藤崎さんが大切にしてきたことの一つが「人の話を聞く」姿勢でした。

「私の場合、主婦しかやったことがなかったので『聞くこと』が重要でした。109ではギャルファッションが分からないから、一緒に働く女の子たちに聞いた方がいい。私にとっては師匠なんです。居酒屋を経営する中では、お客様の声を聞くことがすごく重要。ドムドムでもお客様の声を聞き、気持ちを理解しなければ、お客様はついてきてくださらないと思っています」

 社長就任後、まずは消費者の声に広く耳を傾けようとイベントなどに出店し、幅広い客層の反応を確かめました。「お客様がどんな風にドムドムを考えてくださっているのか模索した期間」だったといいます。

「大手には敵わないのだから、自分たちは何を目指すのか。独自性ですよね。お客様に愛され守られたブランドを50年後も続くように育むことが第一の目標。会社本位の『こうあるべき』という考えではなく、お客様とスタッフの人生に寄り添って並走しながら共存していきたい。そうした思いに行き着きました」

おいしさは最低限のお約束 バンズからカニの姿揚げがはみ出る衝撃バーガー

ドムドムフードサービスの社長に抜擢された藤崎忍さん。ユーザーが何を求めているのかを一番に考えている【写真:荒川祐史】
ドムドムフードサービスの社長に抜擢された藤崎忍さん。ユーザーが何を求めているのかを一番に考えている【写真:荒川祐史】

 社長就任後も藤崎さんの“話を聞く姿勢”は変わりません。「会社を良くしたいという目標にみんなで向かうには、いろいろな意見を聞くことが重要だと思います。威圧的な態度を取ることは自分の耳をふさぐのと一緒」と、誰もが意見を言いやすく、提案しやすい環境を整備。話題になった「丸ごと!!カニバーガー」などの斬新なチャレンジも、そんな背景から誕生しました。

「飲食業にとって商品がおいしいことは、お客様との最低限のお約束。そこに付加価値をつけたものということで、商品開発部がユニークなものを考えてくれています。カニバーガーも面白いだけじゃなくて、とてもおいしかったので、これは商品化して皆さんにお届けしたいと思いました。

 もちろん役員会では反対意見もありました。でも、商品開発部の熱意ですよね。カニに持たせる旗を事務所で手作りしていたんですよ(笑)。その気持ち、モチベーションはすごく大事だし、会社全体に良い影響を与えると思いました」

 大盛況の期間限定「カレー屋ドムドム」(東京・銀座)で提供するカレーは、和牛100%のプレミアバーガーを提供する「TREE&TREE’s」(東京・新橋)で余った牛すじ肉を利用。「チャレンジすることに意味があるからやりたい」という社内の声を受け、フードロス解消と外食産業活性化を目的にオープンしたところ、本社社員が総出で手伝うほど大人気になっています。