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ジョコビッチ問題に揺れるオーストラリア “コロナ優等生”に今何が起きているのか

公開日:  /  更新日:

著者:守屋 太郎

オージービーフが消えた 人手不足で供給網寸断

棚から商品が消えたシドニー市内のスーパー店内【写真:守屋太郎】
棚から商品が消えたシドニー市内のスーパー店内【写真:守屋太郎】

 オミクロン株は物流や交通にも大打撃を与えています。陽性者や濃厚接触者の隔離で、仕事を休む人が急増しているからです。豪公共放送ABCによると、国内最大手のスーパーマーケットチェーン「ウールワース」の配送センターでは最大40%の職員が欠勤し、商品を十分に供給できていません。

 シドニー郊外にあるスーパーの店内は、トイレットペーパーが売り切れているだけではなく、精肉売り場の棚も空っぽの状態に。消費者の買い占め需要による品不足は何度もありましたが、今回は感染者の急増による人手不足という、供給サイドの問題が引き起こしているのです。

 老人養護施設に勤める介護士の隣人も「年末年始は1日も休めなかった」と疲れ切った様子。鉄道やバスも運転手が足りず、運行本数を減らしています。

「コロナとの共生」に舵を切る 「ロックダウンは再開しない」

オーストラリアの1日あたり新規感染者推移【画像提供:守屋太郎】
オーストラリアの1日あたり新規感染者推移【画像提供:守屋太郎】

 オーストラリアは2020年3~4月の第1波以来、軍と警察を動員したロックダウン(都市封鎖)を繰り返し、実質的な鎖国といえる厳しい水際対策も実施。これらが功を奏する形で概ね封じ込めに成功し、“コロナ優等生”と評価されてきました。

 オーストラリアの100万人当たりの累計死者数(1月14日時点)は101.64人と、米国の2550.92人や英国の2224.61人、世界平均の702.16人と比べて圧倒的に少ないのです。世界的には優秀とされる日本の146.16人も下回っています。

 ところが、今回のオミクロン株の局面では、スコット・モリソン首相が「ロックダウンは再開しない」と宣言しています。ワクチンの完全接種率が約8割に達し、従来の「ゼロコロナ」から「コロナとの共生」へと大きく舵を切ったからです。ニュージーランド、シンガポール、日本、韓国などから外国人の入国を条件付きで認めるなど国境再開も進めています。

 確かに、直近のオミクロン株による人手不足や景気への打撃は深刻。それでも、オミクロン株は感染力こそ強いものの、毒性が低く、ワクチン接種者が重篤化する危険は低いとされています。感染がピークを過ぎるのは近いという見通しもあり、政府は新規感染者数が1月中旬に天井を打ち、2月にかけて収束していくと予想しているようです。

 今度こそ長いトンネルを抜け、本格的な経済再開を期待したいところ。次回は、オーストラリア政府が行ってきた手厚いコロナ経済対策と厳しいロックダウンの功罪、ポストコロナの生活様式の変化などについて解説します。

(守屋 太郎)

守屋 太郎(もりや・たろう)

1993年に渡豪。シドニーの日本語新聞社「日豪プレス」で記者、編集主幹として、同国の政治経済や2000年シドニー五輪などを取材。2007年より現地調査会社「グローバル・プロモーションズ・オーストラリア」でマーケティング・ディレクター。市場調査や日本企業支援を手がける傍ら、ジャーナリストとして活動中。