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米倉涼子の「新聞記者」 これまでの役と違って見える理由とは 静かで圧倒する演技
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落ち着いた口調で取材対象者に対応する記者 静かで圧倒する演技
演じるにあたっては、「毎日新聞」の記者に新聞の仕組みや仕事へのスタンスなど“ニュースを作るためにどう動いているのか”をリサーチ。監督とも十分なディスカッションを行って作り上げていった。
松田記者のモデルは「東京新聞」の望月衣塑子記者だが、松田記者は佇まいからして大きく異なる。松田記者は落ち着いた口調で取材対象者と対応する。上司との埒のあかないやり取りにも、早口でまくしたてたりはしない。
この静かで圧倒する演技は藤井道人監督のオーダーだという。それを受けて米倉は、「傲慢に見えたり、落ち着きなく見えることのないよう気を付けた」上で役作りをしたと語っている。
作品の中で広告代理店「新報エージェンシー」の豊田(ユースケ・サンタマリア)が、人心掌握術の1つとして総理補佐官の中川(佐野史郎)にこんな説明をする。「今の若い層は安定を求めていることがデータから分かっています。言い換えれば、変化や批判を嫌う傾向が非常に強い。野党が躍起になって批判をし、変化を謳えば謳うほど彼らの気持ちは離れていきます」と。
松田記者は、詰め寄って喚いたり大声で批判したりせず、寡黙に事件を追い、時に涙を流す。ネットフリックス版の成功は、こうした“記者”のキャラクター作りにあるのではないか? そしてこれはまさに藤井監督が、豊田の言うセオリーを取り入れたからだと思う。
松田記者の当たりがやわらかく、感情的にならない性格から、ハードな内容を扱う作品は取っつきやすいものになっている。それを証明するかのように、配信が開始された13日から17日まで「今日の総合TOP10(日本)」で堂々1位だったのだそう。
そう。米倉が演じる役がこれまでとかなり違って見えるのは、松田記者が自分から切り拓いていくキャラクターではなく、さまざまな苦労を背負った人々の言葉や気持ちを受け止めて物語を進める“狂言回し”となっているからだ。
今回、米倉はキャスト全員と初共演だったという。「新しい世界に飛び込んだなという気がしました」と米倉。変化が望める選択ができ、その変化に対して果敢にチャレンジする姿からは、今年さらなる変化をチョイスする予感がする。
(関口 裕子)
関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)
映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。