カルチャー
レディー・ガガ 渾身で表現した実在スキャンダル 時代を超えて浮かび上がるものとは
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華やかなファッション業界、その裏側はいくつもの映画やドラマ、ドキュメンタリーで描かれてきました。それほどまでに物語が多い業界ではありますが、中でも世界を驚かせたものといえば、有名ブランドの創業者一族に起こった暗殺事件でしょう。27年前に発生したこの事件を『ハウス・オブ・グッチ』として映画化したのは、巨匠リドリー・スコット監督。レディー・ガガが首謀者の女性を演じることも話題を呼んでいる本作は、一体何を描こうとしているのでしょうか? 1年半も役に没頭していたというガガの姿からも、ただのスキャンダル映画ではないという事実が垣間見えるようです。映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。
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世界的知名度を誇るブランドで起こったスキャンダル
1995年、誰もが知るハイブランド「グッチ」の創業者一族で3代目社長のマウリツィオ・グッチが銃殺されるという事件が起きた。約2年後、事件の首謀者がマウリツィオの元妻、パトリツィア・レッジャーニであることが明らかになる。5か月におよぶ裁判はグッチ一族の醜い一面を表面化させ、事件をさらにスキャンダラスなものにし、最後は50歳だったパトリツィアに29年の懲役刑をもたらした(実際は16年で釈放)。
84歳になったリドリー・スコット監督が、その事件をレディー・ガガとアダム・ドライバーの主演で映画化した『ハウス・オブ・グッチ』。完成までに約20年を費やした本作についてアルド・グッチ(本作ではアル・パチーノが演じている)の相続人は、「今日のブランドを築いている遺産に対する侮辱」と不満を表明した。
それはそうだろう。刑期を終えた72歳のパトリツィアは健在なのだから。それでもスコット監督がこの事件を映画にしたいと果敢にも思った理由は何だったのか。
レディー・ガガが解釈したパトリツィアはサバイバリスト
グッチ家の不満はパトリツィアを演じたガガにも向けられた。具体的には「演じるにあたって挨拶がない」というパトリツィア本人の不満だ。
この映画は、長くイタリアに在住したファッション・ジャーナリスト、サラ・ゲイ・フォーデンが10年以上かけて取材し、2000年に出版した「ハウス・オブ・グッチ(The House of Gucci)」(日本語版はハヤカワ文庫刊)がベース。パトリツィアが出版時には差し止めをせず今になって騒ぐのは、自身を際立たせることのできる“映画”という機会に無視されていることが気に食わないのだとも感じられる。
そんな事態が見込まれたこの役に、ガガは意を決して取り組んだ。「彼らがどれほどつらく感じているのかは想像もつきません。でも、だからこそ私はこの役を大切に演じた。ただのひどい人物なのであれば、パトリツィアを演じるつもりはなかった」と。
ガガが解釈したパトリツィアとは、「人生が目の前に与えたものをどうやって手に入れるか。どうしたらそれを最高のものにできるか」という考えに基づいて行動したサバイバリスト。「グッチ」という王朝があるのに「王にならない」と言うマウリツィオに驚き、興味を持った。その驚きはパトリツィアにとっての恋であり、ガガは彼女が恋に夢中になった女性であると考えた。「リドリー(・スコット監督)も『彼女は本当に彼を愛していた』と言っていた」と、その考えを肯定したそうだ。
また、パトリツィアの物語は「普遍的なものだと思う」とガガは言う。パトリツィアは自身の頭が良くて強いために、マウリツィオから愛されていると信じていた。映画でも描かれるように、ビジネスに積極的ではないマウリツィオを“正しい道に導けるのは自分だけ”だと考えていた。