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天海祐希が“絶対的エース”である理由とは 主演作品を観た時の心地よさはどこから?
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天海祐希さんが1995年12月に宝塚歌劇団を退団して、何ともうすぐ26年。天海さんがタカラジェンヌだった期間をとうに越え、現在は数々の代表作を持つ国民的俳優です。場所を変えながらも注目と称賛を浴び続ける姿は、“生涯スター”と言えるでしょう。そんな存在と「老後」という単語は、少し想像がつきにくい組み合わせかもしれません。しかし天海さんの映画出演最新作はそこに正面から踏み込んだコメディ。作品自体の面白さはもちろん、天海さんが持つ“絶対的エース”としての資質がよく分かる内容のようです。映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。
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「深刻ではあるけれどちょっと笑える素敵な作品になるのでは?」
老後の資金がない……。切実な問題だ。かく言う私もまだまだ働く気でいるのは、小さな出版社で働き、フリーになった自分には“老後”などという時間は訪れないと自覚しているからだ。
「老後の資金がありません!」(中公文庫刊)は、垣谷美雨が右肩上がりの経済成長を前提に設定された支出――年金や社会保障、税金、ローン、介護、不動産価格の低下と、我々が抱えるさまざまな不安を小説にまとめた2011年出版のベストセラーだ。
そんな身につまされる小説が映画化された。主演は天海祐希。老後の資金の心配とはかけ離れた印象がある元宝塚のトップスターで、そして現在も映画やドラマに主演し、先頭を走る俳優だ。
天海が演じるのは、浅草にある実家の老舗和菓子屋を継がずサラリーマンになった夫・章(松重豊)に嫁いだ53歳の篤子。その舅が亡くなったことで葬式費用、できちゃった婚する娘(新川優愛)の派手な結婚式費用と支出はどんどん増え、激減する老後の資金に怯えている。
弱り目に祟り目。篤子はパートをクビに、章も長年勤めてきた会社をリストラされ、夫婦そろって失職。しかも独りになった姑・芳乃(草笛光子)と一緒に暮らすことを余儀なくされ、篤子は姑の高級志向な価値観に翻弄されることになる。
なぜ天海は篤子役のオファーを受けたのだろう? クランクインの際に天海は、このように答えている。
「誰もが老いていく中、老後の資金を切実な問題として抱える主婦とその家族を中心に、とても深刻ではあるけれどちょっと笑える素敵な作品になるのでは? と思いました。ぜひ、この作品を観て、老後の問題を先に知っていただいて、ご自分の人生を考えつつ、将来に備えていただけたらいいなあと」
天海祐希に“老いていく”とか、“老後”などという言葉は似合わない。勝手にそう思っていた。だから篤子役を受けたことはもちろん、オファーされたことも不思議に思ったのだ。
吉永小百合も「年下だけど兄貴。頼りになる」と発言
天海が宝塚歌劇団に入団したのは1987年。月組のトップスターを務め、1995年に退団した。在籍期間8年と、当時の宝塚男役スターとしてはやや短い。そんな天海の退団は、ある種の社会現象になったと思う。
退団後1作目は『クリスマス黙示録』(1996)という日米合作映画であった。続いて出演したのは、芥川龍之介の「藪の中」を翻案し、屋久島の森で撮影した官能ミステリー『MISTY』(1997)。これらも業界を大いにざわつかせたことを覚えている。それまで宝塚OGの多くは舞台を中心として活躍することが多かったからだ。
急病のために降板した舞台「おのれナポレオン L’honneur de Napoleon」(2013)などはあるものの、「女王の教室」(2005・日本テレビ系)、「BOSS」(2009・CX系)などヒットドラマに主演以降、天海が“映像の俳優”であるというイメージはさらに強くなった。
その中でも小さな変化を感じる。最近の出演作は、主演でありながらチームを大切にする、チームで動くことを重視する上司や、誰かをサポートすることに意義を見出す実業家などの役が多くなったように感じる。
吉永小百合とダブル主演をした『最高の人生の見つけ方』(2019)の剛田マ子役といい、「緊急取調室」(テレビ朝日系)シリーズの刑事・真壁有希子役といい、「トップナイフ-天才脳外科医の条件-」(2020・日本テレビ系)の脳外科医・深山瑤子役もそうだ。
プライベートと役は違う。そうではあるが、天海の周りには老若男女問わず、仲の良い同業者が多いように思う。慕われているというか。『最高の人生の見つけ方』の時、吉永小百合は天海を「年下だけど兄貴。頼りになる」と語っていた。
「緊急取調室」で共演する塚地武雅も天海とはいろいろな話をすると言う。11月12日(金)公開の『梅切らぬバカ』で塚地とダブル主演した加賀まりこも天海と仲が良く、皆で食事をすることもあるようだ。