仕事・人生
農業女子デビューは結婚がきっかけ 目の当たりにした山積みの桃からフードロス解決へ
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「買う側の意識が変わらないと破棄はなくならない」…観光農園をスタート
ドライフルーツにして販売を始めると、今度は流通の仕組みが気になってきました。「加工品になれば畑での廃棄がなくなるかといったら、そうではないんですよね」と景井さん。生の果物を加工品にしようとすると、飲食店では使ってもらえない現状がありました。そこで、シェフが料理をする時に傷を切り取った状態で提供するような仕組みが作れないかと考えます。
実際に飲食店を訪れ、「なぜ?」のヒアリングをスタート。実際に使ってもらうためにどうすればいいのか、飲食店と一緒にレシピをコーディネートするようになりました。
しかし一昨年、私たちの生活を一変させた新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて飲食店は大打撃を受けます。一斉に原価を抑える動きに転じ、そうなると今度は農作物自体の価値を保てなくなってしまったのです。
そこで景井さんは、そもそも何が問題で廃棄が起きてしまうのかについて再考。その結果、「買う側の意識が変わらないと畑での廃棄はなくならない」という見方に行き着きました。そして2020年9月、畑での廃棄問題を解決するためのチャレンジとして「Berry’s Garden」で畑を借り、桃の栽培を開始。昨夏に初めての収穫を行ったそうです。
「一昨年の夏から1年かけて一通り桃の栽培を行ってみて、農家って本当にすごいなあと思いました。これは実際に体験してみないと分からないこと。そして何より、お金をかけずに問題を解決できる方法はまだまだあるのではと気付くことができたんです。世の中の仕組みが改めて見えたことが、一番大きかったですね」
“買う側の意識”。景井さんが気付いたこの“意識”を変えるために、「Berry’s Garden」は観光農園としてスタート。昨夏にはいろいろな人たちに桃の収穫をしてもらったそうです。
「実際にいらしたお客さんからは、自然に『これ、普通に食べられるじゃん』『何でダメなの?』と聞かれることがあります。『それは鳥がつついちゃっているから交換していいよ』と答えたら、『逆にそれがかわいい』と言ってくださるんです。
そういうやりとりをしていると、“価値”というのは実際に畑に来て知ることで、お客さん自身に感じていただくものなんだなあと思いました。そうしたことから、来ていただくことを前提にして、その中で何を伝えていくべきなのかを改めて整理し直していこうと考えています」
傷のない桃は贈答用に、少々傷があっても食べるに支障のない桃は自宅用に。そうやって用途に応じて消費者の意識を変えていくことができたら、畑の隅に廃棄される桃も減っていくのかもしれません。そして景井さんは、実際に足を運んだからこそ分かる魅力についてもこう語ります。
「農業とはまったく無縁だった私が農業に出会って感じた“ときめき”を、お客さんにも感じていただきたいんです。四季によって異なる表情を見せる農園の姿は、非日常感や特別な時間をもたらしてくれます」
収穫体験という非日常経験は、森林浴の癒やし効果も証明されているそう。消費者に農業を身近に感じてもらうことが、フードロスを減らす一助になるのかもしれません。
百貨店の化粧品・コスメ売り場で美容部員として勤務していたが、結婚を機に同じ県内の福島市へ引っ越し。アパレル販売員として接客業に従事する一方、夫の実家で4世代家族と暮らすうちに、自然な形で家業の農業に携わるようになる。そこで感じた疑問、特に「畑の隅に廃棄される大量の桃を何とかしたい」という思いから、フードロス問題に真正面から向き合うことを決意。10年間の試行錯誤の末に2017年、屋号である「Berry’s Garden」を立ち上げ、本格的に農業の道に入った。現在の事業内容は加工品の企画開発販売や飲食店、食品と果物の流通、畑の運営と桃の生産など多岐にわたる。
(Hint-Pot編集部・出口 夏奈子)