漫画
「私の声を取るな」 耳の聞こえないママが激怒した子のいたずら 理解描く漫画に感動
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世の中にはいろいろな人がいる……頭では分かっている常識ですが、違いや個性を尊重しながら共存するには、まず実際に接する人たちを“知る”ことが最初のステップになります。耳の聞こえないママと聞こえる息子、親子の間でもそれは同じのよう。息子の無邪気ないたずらをきっかけにして交わされた親子の会話が大きな反響を呼んでいます。漫画作品として投稿したイラストレーターのミカヅキユミ(@mikazuki_yumi)さんに、息子や社会に届けたい思いなどを詳しく伺いました。
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病院の受付で始まった無邪気ないたずら
イラストレーターのミカヅキさんは、9歳の息子ちどりくんと5歳の娘かのこちゃんを育てるママ。ミカヅキさんは耳が聞こえないため、子どもたち2人はCODA(聴覚障害者を親に持つ健聴の子ども)です。もちろん、親子が感じる日々の幸せは他のご家庭と変わらず、ツイッターアカウントには子どもたちの成長を報告する漫画や写真がたくさん並んでいます。
その中には、耳が聞こえないママとしての体験談も。今回話題になった作品は息子が6歳だった時のお話です。ちどりくんの診察で病院に行き、最後に次回の来院予約をすることになったミカヅキさんは、受付の人と筆談を始めました。
するとちどりくんは、ミカヅキさんが使っているボールペンのノック(後ろのボタン部分)を押すといういたずらを始めました。何度注意してもやめないことから、「文字は私の『声』だよ」と明らかな不快感を覚えるミカヅキさん。強く叱りたい場面ですが、まずは予約が先決であり、人目を気にするだろうとちどりくんのプライドも考慮しました。
私を見てほしい…悔しい思いから生まれた強い思いとは
改めて話を切り出したのは帰り道でした。そこでちどりくんは、いたずらについて「面白そうだったから」「楽しくてやめられなかった」と返答。ミカヅキさんは「私は嫌だった」といった心情をストレートに伝え、筆談していた理由として「遊びで書いてたんじゃないよ。ちどりを診察してほしいからお話ししてたんだよ」と説明しました。
もし頭にボールペンのノックに相当する部分があって、何か話そうとしたら誰かに押されて何も言えなくなる……だから「紙とペンは私にとって声を出す手段の一つなの」。この例えはちどりくんの理解を促したようで、分かってくれたという手応えを感じたそうです。
「面白半分で私の声を取るな。以上です」
「つまりママは……俺のこと大好きだから、きちんと診てほしいから、それで邪魔されて怒ったんだね!」
ミカヅキさんには、病院で受付の人が健聴者の配偶者さんにだけ話しかけ、とても悔しい思いをしたことがあります。「私を見てほしい……この子を育てる能力があるって認められたい」という思いもあり、今日のように筆談で予約のやりとりをすることで「親として当たり前のことができている実感がして、うれしくなるの」とも語りました。
それを聞いて「俺のママはここにいるママだよ? そんなの当然でしょ?」と答えるちどりくん。漫画の最後には、怒った理由についてもっと深い話ができる日を待ちわびる心境も描かれていました。
この作品は大きな反響を呼び、「この方のコミュ力がすごい」「子どもちゃんが納得できるようにお話し合いできる素敵なママ」「きちんと理解できる形で説明して、気持ちを分かってもらうって本当に大事ですよね」といった親子のあり方を絶賛するリプライ(返信)が寄せられました。
また、聴覚障害者を母に持つ人からは「それでも子育ては大変だったと弱音を吐かず笑い話に変えてくれた母。好きなことを今楽しんでる母を尊敬してます」との言葉も。「子育て中心の生活で自分の夢とか分からなくなってたけど、そういえば昔から手話を勉強してこういう時に手助けできるようになりたいなと思ってた」と、大きな気付きを得た人もいたようです。