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Koki,の俳優デビューはなぜホラー映画? 「人は人、自分は自分」という両親の教えも

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

幼い頃から観てきた父の映画やドラマに影響を受ける

 奏音を演じるのは、映画初出演で初主演となるKoki,。心霊スポットからの動画配信中に行方不明となる少女、詩音と2役を演じる。

 Koki,はある意味、生まれた時から衆目にさらされてきた。木村拓哉、工藤静香の次女として誕生した以上、注目されない方が難しい。ただし、流れに身を任せて現在のポジションにたどり着いたわけではない。

 15歳で芸能界デビューすることも自分の意思で決めた。「自分の心が“今だ”と言ったから。遅いとも早いとも思ってないし、もちろん迷いもありませんでした」と、雑誌のインタビューで語っている。家族の存在が、夢を持つことの素晴らしさやかっこよさを言葉や背中で示し、肯定してくれたのだそう。

 演じる仕事にも憧れを持っていた。幼い頃から観てきた父の映画やドラマに影響を受けたためだという。他の俳優からはなかなか聞くことがない、Koki,特有の理由だ。そのデビュー作品にホラー映画を選んだのも個性的。しかも、ホラーは苦手なのだというのに。

「最初は自分に主演が務まるのかすごく不安だった」というが、Koki,の演じた奏音は因習が引き起こす運命に引きずられてはいるものの、本当に普通の女子高生。ランウェイを歩く人物と同一だと想起させることは一度もなかった。むしろ奏音がまとう、気を許すとこの世界から消えてしまいそうな危うさは、映画が描こうとする恐怖と悲しみをより深めることに貢献していた。

「人は人、自分は自分」と自分を信じることを両親から教えられたという。脚本を読むだけで「ゾワッとするくらい怖かった」と語るが、そこに描かれる家族、友人、姉妹の絆に「とても惹かれた」のだそう。出演を決めた理由は、たぶんその辺りの面白さなのではないか。

「日本の通常の芸能活動の枠を超えた度量と野心を感じる」と監督

 清水監督もそんなKoki,を「ミステリアスな存在感と物怖じしない態度、時折垣間見せる負けん気に大きな魅力を感じた。初めての映画にホラーを選んだことにも、日本の通常の芸能活動の枠を超えた度量と野心を感じる」と興味深く思っていたようだ。

 そんな清水監督は、ホラー映画をこう定義しているという。「人間は、自分たちでは元に戻せず、自然の治癒力にゆだねるしかないものを作り続けて自分らの首を絞めている。自分たちが作り出したものに脅かされるなんて、呪いみたいなもの。ホラー映画の根底にある恐怖とはそういうものなんです」。

 この仕事を終えた後は、「世界観が変わった」というKoki,。「物事のとらえ方や感じ方」が変わったというが、どう変化したのかは次の作品を観て確認するしかない。

 冒頭に述べたように本作はホラーであり、十分に怖い。でも、とりあえず最後まで観ることができた。それはたぶんスプラッタな場面やグロテスクな直接描写がなかったからだろう。むしろ清水監督の、その先のイメージを観客の脳内で作り出させる演出が怖さを倍増させていたように思う。まるでエロティックな場面の規制が厳しかった頃のハリウッド映画のよう。観客の妄想力によってカバーさせたあの手法だ。

 いずれにしても手に汗握り、最後まで観たことで、ある意味爽快な達成感を得られたように思う。観終えた今は、また観てもいいかなと思っていたりする。人とは不思議なものだ。たぶんこれからも時に恐怖を選び、ともに過ごしていくのだろうと思うと。

『牛首村』2月18日(金)全国公開 配給:東映 (c)2022「牛首村」製作委員会

(関口 裕子)

関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。