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闘牛は“残酷”? 伝統文化か動物愛護か…存続に揺れるスペインの今

公開日:  /  更新日:

著者:山本美智子/Michiko Yamamoto

闘牛士の衣装はシルク製ですべて手作り

 とはいえ、やはり闘牛はスペイン人を熱くさせます。闘牛士の目の前にそびえ立つ牛は、思春期を迎えても去勢されていない雄牛に限定。その高さは1.5メートル、体重は300キロから500キロにも達します。この「巨大な獣」対「人間」という昔ながらのモチーフが、多くの芸術家の魂を揺さぶってきたのでしょう。

 最初から逃げるような牛がいれば観客は激しいブーイングを浴びせますし、その対象は闘牛士にも向けられます。真っ向から対峙しなければ、観客は容赦なく罵倒。逆に美しく勇敢に闘牛にとどめを刺したマタドール(闘牛士)には、褒賞として「牛の耳」が与えられます。それを誇らしげに観客に見せながら、肩車されて華やかに退場することは大きな栄誉です。

勇敢に挑むマタドール【写真:Getty Images】
勇敢に挑むマタドール【写真:Getty Images】

 マタドールが身につける衣装は、1か月以上かけて作られる工芸品です。その衣装を間近で見れば、ウェディングドレスすら色褪せて見えるほどの刺繍の美しさに目を奪われます。マタドールの体にぴったりと馴染むようにシルクで作られた衣装は、すべて手作り。太陽の下で銀糸金糸、スパンコールにきらめく様子は息をのむほどの美しさです。

 重さ4~5キロの衣装を身につけ、闘牛士は「ルエド」と呼ばれる円形闘牛場の舞台に立ちます。この華やかな衣装は、ここで命を落とす可能性のある闘牛士が最後に身につける決意表明とも言われています。

 動物愛護か、伝統文化の尊重か。マタドールが命を落とすこともあり、闘牛について議論が尽きることはありません。スペイン人の心を揺さぶってきた文化ですが、大きな岐路に立たされていることは確かなようです。

(山本美智子/Michiko Yamamoto)

山本美智子(やまもと・みちこ)

東京生まれ。清泉女子大学でスペイン語を専攻した後、外資企業の総合職に就職も、一度は海外に住みたいとの夢を捨て切れず、バルセロナ大学へ語学留学。現在はスペイン独立主義の伴侶とともに、バルセロナ郊外で生活中。日本のメディア及び地元のサッカークラブ向けの翻訳、通訳、執筆、取材、コーディネーション、インタビューなどのサービスに従事。最近の趣味はヨガと料理。癒やしは保護センターから引き取ってきた2匹の猫。