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動物に“痛みを伴う手段”を禁止 ドイツで起きた警察犬の首輪をめぐる論争

公開日:  /  更新日:

著者:中野 吉之伴

動物と人間の共生を子どもの頃から学べる環境のあるドイツ

ヨーロッパ最大規模ともいわれるベルリンのティアハイム【写真:Getty Images】
ヨーロッパ最大規模ともいわれるベルリンのティアハイム【写真:Getty Images】

 一般市民はこの件に関して、どんな意識を持っているのでしょうか?

「そんなことをするために犬は生まれてきたんじゃない」「暴れる人間が悪いのに犬が悲しい目に遭うのはおかしいだろう」という声が聞かれます。その一方で、「訓練士も警察官もやむにやまれぬ最後の時しか使用したりはしない」「他のやり方がない中で最善の対処をしておくことは必要ではないか」という意見もありました。

「これこそが正しい」という絶対的な答えを出すのは難しいことかもしれません。しかし、こうした議論を通して、国民が持つべき意識を常にアップデートしていくことはとても重要でしょう。

 その点、ドイツでは「動物と人間はどのように向き合って生きていくべきか」というテーマを考える機会が多いのではないかと感じています。

ドイツの動物保護施設ティアハイム。フリーマーケットといったイベントも行われており、収益はシェルターの動物のために使われる【写真:Getty Images】
ドイツの動物保護施設ティアハイム。フリーマーケットといったイベントも行われており、収益はシェルターの動物のために使われる【写真:Getty Images】

 ドイツ各地には、動物保護施設「ティアハイム」があります。例えば「急死された方の元に残った犬や猫をどうしたらいいだろう?」という相談があれば、施設の職員はペットを引き取りに行きます。交通事故に遭った動物を見かけたと電話があれば、現場へ急行。獣医師と連絡を取りながら、最善の措置を取ります。

 また「ティアパーク」という動物公園も人気です。例えばフライブルク郊外にも「ムンデンホーフ」というティアパークがあり、市民憩いの場となっています。管轄はフライブルク市。入場料金などはなく、運営費は有志の寄付金を中心にしてまかなわれています。誰でも自由に散策を楽しむことができるため、私も子どもたちが小さい頃は月に何度も足を運んで、目一杯楽しんだものです。

 こうしたティアハイムやティアパークの活動について、学ぶ機会が子どもの頃からあるのも大切だと思われます。授業の一環として訪れて、動物の生活を学んだり、動物たちの権利について知ったり、今問題になっているのはどんなことかの意見を出してもらったりするわけです。夏休みにはティアハイムやティアパークがイベントや子ども向けプログラムを行ったりもします。

 どんな問題もまず当事者意識を持って考えてみることからスタート。皆さんもぜひ、動物との共生についてご家庭などで考えてみませんか?

(中野 吉之伴)

中野 吉之伴(なかの・きちのすけ)

ドイツサッカー協会公認A級ライセンスを保持する現役育成指導者。同国での指導歴は20年以上。「SCフライブルク」U-15(15歳以下)チームで研修を積み、さまざまな年代とカテゴリーで監督を務める。執筆では現場経験を生かした論理的分析を得意とし、特に育成・グラスルーツサッカーのスペシャリスト。著書に「世界王者ドイツの育成メソッドに学ぶ サッカー年代別トレーニングの教科書」(カンゼン刊)、「ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする 自主性・向上心・思いやりを育み、子どもが伸びるメソッド」(ナツメ社刊)がある。ウェブマガジン「フッスバルラボ」主筆・運営。