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ドイツの小学生がまず教わる大切なこと 日本とは少し違う教育現場の評価基準

公開日:  /  更新日:

著者:中野 吉之伴

単純な理解以上に求められる意欲や“自主的な姿勢”

“正しく自己主張する”ことと並んで重要視されるのが、“自主的な姿勢”です。

 算数なら、基本的な四則計算の速さや正確さはもちろん大事ですが、数字を使って物事を論理的に考えたり、理解しようとしたりする姿勢があるかどうかも大切。国語(ドイツなのでドイツ語)なら、基本的な単語のつづりや文法をある程度正しく理解できていることは大前提として、それを使って文章を読み書きし、コミュニケーションを取りたいという意欲がどれくらいあるかが重視されます。

 なので、作文のテストでは、つづりや文法が間違っていても減点されないことがほとんど。「どんな順番でどのように伝えようとして、どのように終わりへ持ってくるのか」、自分で文章を構成する力の方がより大切だと考えられてます。

 それこそ細かい技術的なミスばかりを指摘され、減点対象とされてしまったら、子どもたちの学習意欲はみるみるうちに低下してしまいます。これは学校だけではなく、指導者として僕が関わるサッカーの現場でも強調されている大事なポイントです。

 子どもの成長は未知数の部分が本当に大きいので、サッカーにしろ勉強にしろ、伸びしろがどのくらいあるかを小さいうちに見分けるのは簡単ではありません。ですから、多くの教育現場では「実際に課題がどのくらいできたか」だけではなく、「課題をクリアするためにどのように取り組んだか」も評価の対象となるわけです。

子どもたちが可能性を伸ばすために大人に必要なこととは

 子どもですから、知らないことやできないことがたくさんあるのは当然です。だからこそ、今はまだできないことでもいつかできるようになりたいという姿勢があって、それを実現させるためにどうしたらいいか、考えて実行できる子は一般的に評価が高い。子どもたちがそうした姿勢を持てるようなアプローチが、教育現場では求められているわけです。

 授業に積極的に関わって未知のことにチャレンジする子は、そこがプラスに評価されて、通知表を見てみるとたいていペーパーテストの結果よりも高めの成績が書き込まれています。「学びたい」「知りたい」「前に進みたい」という彼らの意欲さえつぶれなければ、そこに伸びしろはどこまでもあるんだろうなと思うばかりです。

 できないことがあるのは悪いことではない。知らないことがあるのは不思議なことではない。そこで子どもたちの価値を線引きするのではなく、「大人になった時にちゃんと自分の頭で考えて、自分の言葉を使えて、自分の足で歩んで」となるために何が必要か? 彼ら・彼女らが知ることや学ぶことに興味を向けられ、間違えを恐れず自分からチャレンジできる下地を、大人が小学生年代から用意してあげることが重要であるように思います。

(中野 吉之伴)

中野 吉之伴(なかの・きちのすけ)

ドイツサッカー協会公認A級ライセンスを保持する現役育成指導者。同国での指導歴は20年以上。「SCフライブルク」U-15(15歳以下)チームで研修を積み、さまざまな年代とカテゴリーで監督を務める。執筆では現場経験を生かした論理的分析を得意とし、特に育成・グラスルーツサッカーのスペシャリスト。著書に「世界王者ドイツの育成メソッドに学ぶ サッカー年代別トレーニングの教科書」(カンゼン刊)、「ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする 自主性・向上心・思いやりを育み、子どもが伸びるメソッド」(ナツメ社刊)がある。ウェブマガジン「フッスバルラボ」主筆・運営。