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ビールの価格が30年で約4倍に 物価高のオーストラリア 在住邦人が感じる肌感覚とは

公開日:  /  更新日:

著者:守屋 太郎

賃金も高いオーストラリア ワーホリや留学で出稼ぎ?

 その背景には、日本経済が長期的に低迷した一方、オーストラリアが安定した経済成長を持続してきたという構図があります。かつての日本は世界的に見て物価が非常に高い国でした。生活費が安かったオーストラリアでは、日本人が退職金で家を買い、年金で暮らすことができていたのです。その状況が完全に逆転してしまいました。

 日本経済の長期低迷については、少子高齢化を背景とした生産年齢人口の減少による需要の縮小など、さまざまな要因が指摘されていますが、話が長くなるのでここでは触れません。

 ただ、大雑把に言えば、次のような図式になります。

 低インフレの日本では将来のお金の価値が目減りしないため、人々は「お金を貯め込んでおこう」と考え、消費が伸びません。すると会社も儲かりませんから「設備投資もしないし、給料も上げない」という悪循環に陥り、経済は成長しません。

 一方、オーストラリアではインフレで将来のお金の価値が下がりますから、個人は「今のうちに消費しておこう。株式や不動産に投資しよう」となります。そして会社は「お金を借りても儲かるから設備投資しよう。いい人材が必要だから給料を上げよう」と考え、経済は成長していきます。

グラフ2:1人当たり実質賃金の推移【作成:守屋太郎】
グラフ2:1人当たり実質賃金の推移【作成:守屋太郎】

 グラフ2は、インフレを加味した1人当たりの実質賃金(基準年:2016年、購買力平価ベース)の推移を比較したものです。オーストラリアや他の先進国はインフレを上回る賃金上昇を続けている一方、日本の賃金はこの30年でほとんど変わっていないことが分かります。

 私は、オーストラリアなどの欧米社会が日本より優れているとはまったく考えていません。日本には、長い歴史と豊かな文化、四季の変化に富んだ美しい山や海、民度の高い国民など、世界に誇れる美点がたくさんあります。

 海外と比べ製品やサービスの質は格段に高く、今も世界3位の経済大国。ただ、経済成長のスピードという点で、後れを取っていることは否定できません。結果、供給に対して需要が高まらず、物価がなかなか上がらない状況が長年続いているのです。

 前回のコラムに対して「物価が高い分、賃金もちゃんと高い」といったコメントをいただきました。その通りです。オーストラリアの最低賃金は時給20.33豪ドル(約1900円)。コロナ後の経済再開により一部の業界では人手不足が深刻化していて、「時給25豪ドル(約2300円)で求人広告を出しても応募が来ない」(飲食業界関係者)といった悲鳴も聞こえてきます。

 次回は、そんなオーストラリアで日本人がどんな仕事に就くことができ、実際に給料をいくらもらえるのか、詳しく解説したいと思います。

(守屋 太郎)

守屋 太郎(もりや・たろう)

1993年に渡豪。シドニーの日本語新聞社「日豪プレス」で記者、編集主幹として、同国の政治経済や2000年シドニー五輪などを取材。2007年より現地調査会社「グローバル・プロモーションズ・オーストラリア」でマーケティング・ディレクター。市場調査や日本企業支援を手がける傍ら、ジャーナリストとして活動中。