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仕事・人生

認知症の父が「免許返納」を頑なに拒否 アラフィフ娘が知った警察での「相談実績」の重要性

公開日:  /  更新日:

著者:和栗 恵

「相談」から生まれるのは「未来の安全」への可能性

 この「相談実績」というのが、実はとても大切なのだと、実際に言われた通り相談に行ってみて実感しました。

 電話で担当してくださった方によれば、「返納」は、受け付けたその場で行うことができるけれど、「失効」させるためには、さまざまな調べや手続きが必要となり、早くとも3か月程度、時間がかかってしまうとのこと。つまり、「その間に車に乗ってしまうのでは?」「車を買ってしまうのでは?」という、周囲の不安を払拭することができないのです。

 そこでの対策が「相談実績」です。相談することで、警察から父親に対し「家族から相談があったので、一度、運転免許試験場に出向き、認知症のテストを受けてほしい。必要があれば、診断書の提出を行ってほしい」という通知が行われるのだそう。ここで父親が出向かなかった際は確認の電話をかけてくれ、電話で話にならない場合や、電話に出なかった場合は、警察官が直接実家に出向いて父の状態を確認。「運転が難しい状態にあり、これ以上の免許の更新はできないので、返納しなければ失効します」……と、本人に対し勧告してくれるというのです。

 もちろん、あくまでも勧告は自主的に免許返納を勧めるもので、失効の時間が短くなるわけではありません。しかし、制服を着用した警察官が家に来たというインパクトのためか、これまで、ある程度の効果が認められてきているといいます。

 加えて、こうして相談実績を作ることで、免許を取り上げられた父親が警察署に出向いて再交付しようとしても、受け付けてもらえない可能性が高くなることも教えてもらえました。

 そこでさっそく、最寄りの運転免許試験場へと出かけ、相談することにしました(相談の際は予約が必要ですので、必ず事前に電話をし、時間等を決めてください)。担当の方は、父親の状況を丁寧に聞き取ってくれました。しかも……。

「今後、お父さんがご家族に対して、免許についてなんだかんだ言いだしたら『警察がすべて悪い! お父さんの免許を取り上げないでほしいと言ったけど、警察の人がダメだって言った!』と、警察を悪者にしてくれて大丈夫ですから」と……そんな驚くような言葉をかけてくれたのです!

「相談」に行って知った 認知症患者の怒りの矛先を変えるアドバイス

 担当してくれた警察官によると、男性の場合……とくに、長いこと車に乗る仕事をしてきた場合は、免許を返納・失効した後、家族に対して暴力を振るったり、暴言を吐いたりする例が少なくないとのこと。

 しかし「警察が全部悪い!」と伝えることで、敵意の矛先が警察に向き、家族に暴力を振るうことが減るのだそうです。

「毎月のように『俺の免許を返せ!』って言ってくるおじいさんもいるんですよ。でも、ご高齢の方はだいたい、制服を着ている警察官の前にくると、何も言えなくなって、おとなしく帰っていくんです。『はいはい、また来月ね!』なんて声をかけることもあるんですけどね」

「僕たちは、短時間相手にすればいいだけだから、全然問題ありません。認知症の患者に毎日のように接するご家族が、一番辛いんですから、僕たちに責任をかぶせてくれていいんです。それで少しでもご家族の気持ちや生活が楽になれば、そのほうがいいでしょう?」

 担当の方はそう笑顔で語ってくれました。

 その心遣いに思わず泣きそうになるのをこらえ、お礼を伝えて試験場を後にしたのですが、「相談」という形で話を聞いてもらえたことで、私自身も肩にのしかかっていた重石が外れたような気分になったのです。

 まだようやく「相談」を行ったところなので、父親から免許を法的に取り上げるまでには、もう少々時間がかかりますが、それでも返納に向けて一歩進むことができたことで、私や家族の気持ちがだいぶ軽くなったように思います。

(和栗 恵)