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「いただきます」を誰に伝えるのか分かった…母娘が“鶏を絞めてさばく”体験 心境の変化は

公開日:  /  更新日:

著者:小田島 勢子

心で感じた「『いただきます』を誰に伝えるのか」

店頭に並ぶ鶏肉よりもはるかに筋肉質で痩せていた鶏【写真:小田島勢子】
店頭に並ぶ鶏肉よりもはるかに筋肉質で痩せていた鶏【写真:小田島勢子】

 ギルバートの農場に到着しすべての準備が整うと、彼は近くのヤギと遊んでいた子どもたちを呼び寄せ、帽子を脱いで胸に手を当てました。そして鶏たちに、天に、地球に感謝と祈りを捧げます。皆で目を閉じ、ギルバートの祈りを聞きながら、私も手を合わせました。

「命をいただきます」

 祈りの後、ギルバートは子どもたち一人ひとりに鶏をさばく一連の流れに参加するかを確認しました。子どもたちが参加の意思を伝えると、「君たちは鶏を捕まえて、ここに連れてきてもらってもいいかな」と役割が与えられることに。さらに、ギルバートは連れてきた鶏を運んできたらその足を持ち、逆さにするようお願いしました。

 子どもたちが体の半分ほどもある大きな鶏を上手に抱き上げ、ギルバートから言われた通りにすると、それまで羽をバタつかせていた鶏は動きを止め、目を閉じます。その様を見ていると、勝手な想像だけれど何かを悟り、覚悟したかのように感じました。

 それからギルバートは鶏を受け取り、首筋に添ってナイフを当てました。大人が目を背けたくなる気持ちになる中、子どもたちは血を流す鶏をしっかりと見ていた光景がとても印象的でした。

65度のお湯に浸け、羽を抜きやすくする作業【写真:小田島勢子】
65度のお湯に浸け、羽を抜きやすくする作業【写真:小田島勢子】

 大人全員で血抜きを終え、羽を抜く工程を経て足と首を外すと、鶏は私たちのよく知る「鶏肉」に。私の中で点と点でしかなかった「動物」と「肉」が、ここで初めてようやく一本の線としてつながった感覚がありました。

 内臓処理は、普段から鶏や魚をさばく機会の多い私が担当することに。さっきまで生きていた鶏の体内はまだ温かく、すべての部位がつややかで美しかったことも、一生忘れないでしょう。

 子どもを含めたその場にいる人に鶏の開き方、内臓の部位、砂肝、心臓、肝臓や腸などを取り除いた後の肺の外し方を伝えながら、「すべて残さずいただこう」と強く思いました。そうして作業を開始して8時間、10羽の鶏はすべて鶏肉に。また今回の経験を通じて、娘も「『いただきます』を誰に伝えるのか分かったよ」と話していました。