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BLコミックが結んだ老婦人と女子高生の絆 芦田愛菜と宮本信子が見せるリアルな友情

著者:関口 裕子

(c)2022「メタモルフォーゼの縁側」製作委員会
(c)2022「メタモルフォーゼの縁側」製作委員会

「天才子役」として称賛を集める一方、驚異的な読書量や豊富な語彙、深い発言でも注目を集めていた芦田愛菜さん。今年4月には高校3年生になり、一部メディアは医学部への推薦入学内定を報じました。これは正式に公表されていませんが、芦田さんの成長を見続けているファンなら驚く展開ではなかったでしょう。俳優として、また1人の少女として美しく聡明に前進を続ける姿は、芦田さんの魅力を引き立てる要素の一つでもあります。17日に公開される『メタモルフォーゼの縁側』は、そんな芦田さんがストレートに“成長”を表現する作品。名俳優の宮本信子さんと紡いだ友情物語は、新たな代表作になるかもしれません。映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。

 ◇ ◇ ◇

BLコミックがつないだ老婦人と女子高生の縁

 SNSにこんなエピソードの投稿があった。投稿者は見知らぬ老婦人に頼まれてプレゼントの購入を手伝った若い女性。「お礼に」と贈られそうになった高級菓子を「いただくようなたいそうなことをしていない」と固辞すると、「子どもに恵まれなかったけれど、まるで娘と一緒に買い物したみたいでうれしかったから」と言われ、素直に受け取ったのだそう。「姑もこんな方だったらよかったのに」とオチをつけながら。

 この方々のご縁がその後も長く続くのかどうかは分からないが、「遠くの親類より近くの他人」とも。血のつながりよりも、近所に住む“ウマ”や“趣味”の合う人との付き合いの方が“大切かも”と思う瞬間は確かにあると思う。

 狩山俊輔監督、岡田恵和脚本の『メタモルフォーゼの縁側』にも、そんな年の離れた女性たちの友情が描かれる。鶴谷香央理の同名原作漫画を映画化した本作の主人公は、自分に自信が持てない高校生のうらら(芦田愛菜)と、配偶者に先立たれた雪(宮本信子)。日々を持て余し気味の雪は、書店でアルバイトをしていたうららと出会う。

 その時、雪が買ったのは「君のことだけ見ていたい」というタイトルのBL(ボーイズラブ)コミック。絵がきれいだったからという理由で、内容を知らずに購入したBL本の主人公は、同じ高校に通う幼なじみの咲良と佑真。雪は、友だちであるがゆえに恋へと進めない、もどかしい時間を過ごす少年2人を応援したくなり、BLにハマっていく。

 自分がハマれるものを見つけると、それについて語らいたくなるもの。いわゆる“同好の士”が欲しくなり、雪は「君のことだけ見ていたい」についての情報を教えてくれ、BLコミックの購入をサポートしてくれた書店員のうららを“ナンパ”する。

 引っ込み思案なうららは、雪と話したい気持ちはあれど、同世代の客が多いファミレスでBLの話をする勇気がなく、黙って話を聞くばかり。雪は「無理もない。いきなりこんなおばあさんと」と受け止めるが、それはうららに自分の好きなものを恥じることなく「好き」と言える勇気がないだけなのだ。

意思を表現できない少女に乗り越えるきっかけを与える老婦人

 BLの主人公たちが好きな人を好きだと言えないように、率直に自分の意思を表現することはうららにとって高いハードルになっている。うららはBLの主人公たちに自分を重ねている。うららの背景は詳細に描かれないが、その根底には1人で彼女を育てる母親に迷惑をかけてはいけないという遠慮があるようにも見える。

 雪は、そうした障害をうららが乗り越えるきっかけを与える。雪にとってBLはパワースポット。答えのない未来へと迷いながらも進んでいく主人公たちに勇気をもらっているのだ。

 雪とうららの関係は、趣味を同じくする同好の士。2人が年齢を超えた友情を育む姿は、『ニュー・シネマ・パラダイス』(1988)の映写技師アルフレードと少年トトを見るかのよう。映画愛の代わりに、2人はBL愛を語る。

 うららは古い一軒家に住む雪を訪ね、その縁側で四季を味わい、BLを語り、カレーを食べる。うららの母親が知ったらさぞ驚くだろう。引っ込み思案な娘が祖母のような年齢の女性と、対等な友情を育んでいるのだから。

 雪の少女時代にあった“貸本屋”という商売や、雪が好きだった少女漫画、出せなかったファンレターについてうららは聞き、書道の先生になったきっかけを知る。そして、雪の人生を通して、「大事なものを大事にする」ことがいかに大切なのかを噛みしめる。

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