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吉岡里帆がアニメの新人監督を熱演 『ハケンアニメ!』に見える“守りたい存在”とは

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

(c)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会
(c)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

 今年29歳を迎えた吉岡里帆さん。父はカメラマン、育ったのは東映太秦映画村(京都府京都市)の近くと、幼少時から制作現場を身近に感じる環境だったようです。そんな吉岡さんが映画最新作『ハケンアニメ!』で飛び込んだ“現場”はアニメーション制作。自身とどこか似ている新人アニメ監督を熱演しています。物を作ることと表現すること、そして人に感動を与えること。そのすべてを追い求める現場で、吉岡さんの個性はどのように輝いているのでしょうか。映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。

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主人公は視聴者に刺さる作品を目指すアニメ業界の“作り手たち”

 もうすぐ公開される日本のアニメーション映画の多くが、「守りたい」をキーワードにしているようだ。

 映画館で上映されるたくさんの予告編。そのほとんどの主人公が少年と少女(その世代に向けているのだから当然ではあるが)。そしてキーワードが「守りたい」であると、ドンピシャ市場世代から外れている者は、どのタイトルがどの映画のものなのか覚えていられない。果たして、その中から「これを観たい」と選別できる人はどのくらいいるのだろう?

 それらの作品世界は、主人公である守りたいと思う者と守られる者、ほぼ2人だけで構成される。そして片方が相手を、全身全霊を尽くして守ることが世界をも救う。これは何のメタファーなのか? ことあるごとに考えてしまう。

 そんなアニメーション業界の“作り手たち”を主人公にした映画『ハケンアニメ!』が公開される。原作はミステリー作家、辻村深月が女性誌「an・an」(マガジンハウス発行)で2012年から2014年まで連載した同名小説。あるアニメ作品を観たことで“世界”が変わってしまった人々、アニメへの愛を抱えて日夜アニメ業界の現実と戦う人々の物語だ。

“ハケンアニメ”とは、同じクールで放送されるテレビアニメの中でトップの視聴率、トップの売り上げをあげた作品を指す言葉。漢字で書くと“覇権アニメ”となる。とはいえ、これは覇権レースを描く作品ではなく、作品を必要とする視聴者に刺さるアニメを作ることを第一義としたい人々の戦いを描いている。

 原作には“ハケンアニメ”という言葉を聞いた主人公の1人が、「バカにされてんのかと思った。フリーランスが多い業界だから、派遣社員で作ってるって」というセリフがある。たぶん作者はこのタイトルを使うことで、そういった業界の労働環境についても言及しているのだと思う。