カルチャー
BLコミックが結んだ老婦人と女子高生の絆 芦田愛菜と宮本信子が見せるリアルな友情
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描かれるリアルで理想的な友情を通して芦田愛菜が表現する「成長」
うららを演じる芦田は、現在、高校3年生。大学の医学部に内部進学で内定したなどという噂が出ているが、それは芸能活動、学業ともに、誰もが納得する成績を収めているからだろう。
彼女のインタビューを読むと、役の解釈の掘り下げ方や自分を俯瞰的に見て演じている様に驚かされることがある。本を1日1冊読み、さまざまな思考を柔軟に取り入れてきたことも素地になっているのだろう。まるで司馬遼太郎並みの読書量だ。うららが本や漫画を愛していることが自然に伝わってくるのは、決して演技だけではないと思う。
うららは雪に励まされて同人誌を作ることにする。ノートの端の落書きではない。ケント紙にインクを付けたペンで描き、スクリーントーンを貼って、オフセット印刷した、れっきとした同人誌。YouTubeで漫画の描き方を学ぶ様子がリアルだ。雪が印刷費を負担し、さらに知り合いの小さな印刷所に頼んだことで、この作品は2人の“共同製作”となる。
たどたどしくペンを進めながら「これを本にして人に売る? 正気か? 私」と自問自答するうらら。自分を客観視したこの台詞からは、大人への成長(メタモルフォーゼ)がはっきりと見て取れる。この作品はこんな風に何気ない形で、映画の見せ場であるターニングポイントを提示してくる。芦田の演技、狩山監督の演出にときめくしかない。
スクリーンの中を生きる芦田の演技はすごい。雪の家の敷石を“けんけんぱ”しながら帰る様子、「漫画を描くのは楽しいか?」と問われ返すセリフ、2人で夕立の中帰宅した時、雪のカーディガンについたしずくをハンカチで拭く仕草。それらすべてが、その時々の彼女の気持ちをスクリーンにはっきりと浮かび上がらせる。
もちろん、宮本とのコラボレーションがそれをさらに際立たせたということでもある。芦田と宮本が外を向いて縁側に座っている何気ないショットが何よりもそれを物語る。
昨日までまったく知らなかった誰かと深いところで結びつくことができる展開は確かにあると思う。そのきっかけは趣味、またはふとした思いやりなのかもしれない。家族の在り方が変化し、多様性が求められる現代だからこそ、うららと雪の友情はリアルかつ理想的なものに映る。鑑賞後は、何だか泣きたくなるような余韻を味わった。
『メタモルフォーゼの縁側』 6月17日(金)全国ロードショー
(関口 裕子)
関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)
映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。