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広瀬すずの確実な成長 『流浪の月』で見せた“キャラクターに力を与える”演技とは

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

(c)2022「流浪の月」製作委員会
(c)2022「流浪の月」製作委員会

 6月に24歳を迎える広瀬すずさん。姉の広瀬アリスさん同じく、雑誌専属モデルとしてデビューしました。以後は俳優としてもドラマや映画、舞台に出演し、アニメーション作品では声優も経験しています。その瑞々しい表情は見る者を瞬時に魅了しますが、映画最新主演作『流浪の月』では、世間から「誘拐事件の被害女児」と見られている女性、という難しいキャラクターを演じました。ただし、そうした設定をスキャンダラスに描く作品ではありません。「被害女児」から「強い成人女性」に至るまでの経緯を丹念に綴った内容は、広瀬さん自身の“成長”も色濃く感じるものになったようです。映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。

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「誘拐犯」になった大学生と「被害女児」になった少女

 誰にも正しく真実を伝えるのは結構難しい。“事実”は一つなのかもしれないが、角度によってそれは少しずつ異なって見えるかもしれないし、人は対象を自分が見たいように見るもの。全員が等しく同じように受け止めるのは至難の業だ。

 そうした“事実”の部分に「ロリコン大学生による小学女児誘拐監禁事件」という一見えげつなく感じられる言葉が入る小説が、「2020年本屋大賞」を受賞した。凪良(なぎら)ゆうの「流浪の月」(東京創元社刊)だ。

 小説の中の“事実”は、帰宅したくない切実な理由を抱える9歳(映画では10歳)の少女・家内更紗を、身体的な要因から母親に“ハズレ”のレッテルを押された19歳の孤独な大学生・佐伯文が家に招いただけ。だが、違う角度から見るとそれは、文を「誘拐犯」に、更紗をその「被害女児」に仕立てた。

 そうなった途端に物語は、“居場所のない2人”の交流を描くパーソナルなドラマから、“事件の当事者たち”がSNS上で社会的規範にさらされながらどう生きることができるのかという内容へと変化していった。

 言うならばこれは“冤罪”の物語だ。しかし、一緒にいることで更紗と文が心から解放されていく幸福をともに味わった読者は、たぶん冤罪であることより、このサンクチュアリを何も知らない者が傍若無人に壊したことに怒りを感じるだろう。それと同時に、“被害者”が子どもかつ少女であったがゆえに、“誘拐事件”でないことや本当に裁かれるべきは別にあることを伝えられなかった歯がゆさも。

 彼らがサンクチュアリを守れなかった理由は2つ。まず“経験値”が足りなかったこと。そして2人とも子ども時代(1人は進行形だが)に負った心の傷から、大切なものを奪われたことに反発する力が残っていなかったことだ。