どうぶつ
誕生後5日で天国に行った子犬 100頭以上の出産に立ち会った訓練士が語る「命の尊さ」
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教えてくれた人:稲垣 芳人
「愛犬の子どもを見てみたい」と思ったことはありませんか? しかし、安産の象徴とされている犬もお産にはリスクがつきもの。安易な繁殖は危険が伴います。愛犬の繁殖を年2回実施する稲垣芳人さんは、ドッグスクール「Hundeschule Inagaki(フンデシューレ・イナガキ)」を運営する犬の訓練士。これまで犬のお産に100回以上も立ち会ったという稲垣さんに、これまで見てきたその現実についてお話を伺いしました。
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生後5日で天国へ 独立後のお産立ち会いで初めての経験
僕は自身のドッグスクールを開業する前、横浜のドッグスクールで約9年間働きながら修行を積みました。その頃にさまざまな犬種の出産にも立ち会いましたが、どんな犬種であっても全頭が必ず無事に誕生するわけではありません。
その要因はさまざまで、死産もしくは生後すぐに亡くなってしまうことがあります。あくまでも僕の経験上ですが、割合でいうと出産100回のうち30~40回くらいあるのではないじゃないでしょうか。出産は人間と同じく命に関わることなのです。
訓練士として独立後は、自宅で愛犬のカニンヘンダックス「ミュー(μ)」とトイプードルの「ニケ」の繁殖も行っています。今回は独立後初めて、通常よりも小さい胎仔が1頭誕生。最初に生まれてきた子で、これまでミューが産んだ他の犬たちの半分くらいのサイズしかありませんでした。
こうした子犬は母犬から育児放棄されることがあります。犬舎によってはそういった場合、何もせず見守ることがあるようです。しかし、僕はどうしてもそれができず、2時間おきにミルクをあげて、体を温めて……と、ほぼ眠らずに面倒を見続けてしまいました。
残念ながらこの子犬は、生後5日目に亡くなってしまいましたが、きちんと供養をしてあげようと僕の彼女に名前を考えてもらい、「千夜」と名付けてあげました。僕の場合、子犬に名前を付けるのは血統書の登録を行う時なので、生後5日目で付けることはありません。けど、せっかくこの世に生まれて5日間懸命に生きたのに、名前がないまま火葬するのがつらかったのです。
今、この時の子犬は小さな骨壺に収まっています。とても小さな骨なのに大腿骨の形が分かるのを見て、何だか泣けました。息を引き取った時は母犬と姉妹犬に囲まれていたので、それが救いですかね。僕はきっと、今回のお産のことを忘れないでしょう。
千夜のように小さく生まれたからといって、必ずしも成長できないわけではありません。千夜が亡くなった原因の一つは、個体として弱かったということです。また、千夜とは別に遺伝病が出て、一頭手元に残した子も。この子は愛犬としてしっかりと育てる予定で、訓練次第では競技会に出場することも検討しています。
このように、生まれてきた子犬がすべて必ず健康に成長するわけではないこと。また、母犬の大きさによっては、自然分娩ではなく帝王切開になる場合もあることなど、よく理解しておく必要があります。
修業時代から繁殖に携わっていますが、今いる犬たちはすべてさまざまな奇跡の上に存在しているといつも思わされます。子犬たちから、命について大切なことを教えられているような気持ちになるのです。