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綾瀬はるかの“言い切り言葉”が光る『はい、泳げません』 人が体を鍛える理由とは

著者:関口 裕子

(c)2022「はい、泳げません」製作委員会
(c)2022「はい、泳げません」製作委員会

 梅雨のシーズンに入れば夏はもう間近。「泳ぐ」という行為が人気を集める季節になります。日頃の運動不足から、今夏は近くのプールに行こうと考えている人も多いでしょう。そんな季節にぴったりの映画『はい、泳げません』が公開されました。長谷川博己さん演じる泳げない男性が、綾瀬はるかさん演じる水泳コーチに指導を受けるというこの物語。大人の“スポ根モノ”にも思えますが、実際は少々違っているようです。「生きる」ということが包括されたテーマに深みをもたらすのは、綾瀬さんがこれまでの出演作でも時折放っていた「言い切りの形」の言葉。映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。

 ◇ ◇ ◇

水泳は明確に“生きる”ことを意識させる

 未だ勤務形態はテレワークという方も多い昨今、家での手軽な娯楽として動画配信サービスを楽しむ方が増加した。一方、散歩やジョギングなど家から出て行う趣味を持つ人も増えている。外に出る目的は、大きくは体力作り。でもきっと同じくらい心のケアにも効果があったのではないかと思う。

 厚生労働省の「運動習慣」年代別調査(平成30年度)によると、意外なことに一番運動する習慣がないのは男女とも20代だった。逆に2割以上が恒常的に運動すると答えたのは50代より上の世代。基礎代謝がグッと下がる40代で「このままではいけない」と感じ始め、「真面目に何とかしなければ」と具体的になるのが50代なのかもしれない。

 長谷川博己、綾瀬はるか主演、渡辺謙作監督の『はい、泳げません』は、大学で哲学を教えている40代の小鳥遊(たかなし)雄司が、泳げるようになりたいと一念発起してスイミングスクールに通う物語。水泳のコーチ・薄原(うすはら)静香は独特なボキャブラリーを使い、生徒たちの“泳ぎたい”気持ちを現実へと導いていく。

 泳ぐことができればその分、水中で長く“生きる”ことができる。映画を観ながら、高校時代の体育で行ったプールの試験を思い出した。それは、いかに溺れることなく長い間水に浮いていられるかという“生きる耐性”を試すもの。水の中で過ごすことは、それだけで心の強さが求められるのだろう。実際、波も流れもないプールで浮いているだけなのに、心折れそうになる瞬間を何度も味わった。水泳は明確に“生きる”ことを意識させるのだ。

トレーニングがトラウマから自分を解放させる手段に

 小鳥遊と薄原にとっても水泳は“生”を意識させるものだった。それぞれトラウマになる事件を過去に経験した2人にとって、水泳は単なる適度な運動量を保持するためのトレーニングではなく、そのトラウマから自分を解放させる手段となっていく。

 特にまったくのカナヅチであった小鳥遊は、水に顔をつけることすら怖いところからのスタート。その上、小鳥遊の経験した事故は水絡みで、解離性健忘とでもいうか、その時の記憶を失い、恐怖心だけを残していた。

 硬直させた心を抱えながら小鳥遊が授業を行い、日常を過ごす姿には既視感があった。たぶん、小鳥遊のように大きな事故を経験せずとも、がむしゃらに生きる多くの人の心に同様の硬直感があるからではないか。そして、彼らはそれに気づいても、致命傷となる大きなダメージではないのでメンテナンスを忘れる。いや、まだもう少し大丈夫だと高をくくってしまうのだ。そして、そのうちに動けなくなる。そんな例をたくさん目の当たりにした。

 小鳥遊もきっと動けなくなる一歩手前だったに違いない。薄原の指導のもと、一進一退しながら水への恐怖と戦っていく。

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