仕事・人生
宝塚ファンに衝撃を与えた電撃婚の真相 元星組トップスター稔 幸さんが語る舞台裏
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インタビュアー:竹山 マユミ
極秘裏に進められていた結婚準備 夫が浴びてしまったファンからの“洗礼”
竹山:でも当時、「休んだら?」と言われたとしたらどうされていましたか。
稔:というか、その時はもう退団カウントダウンでしたし、皆さんには内緒で結婚式も迫っていたので……。
竹山:それですよ!! トップスターさんでは宝塚史上でも類を見ない早さでご結婚されたわけじゃないですか。当時はどんな心境だったのですか。
稔:もう、この機会を逃したら、一生結婚はできないだろうなと思って。だから勢いみたいな感じでしたね。
竹山:当然、退団が決まる頃には、同時進行でいろいろなことを進められていたわけですよね。
稔:骨折中にウェディングドレスの仮縫いとかしていましたね。
竹山:お相手の方は何とおっしゃっていましたか。
稔:こっち(宝塚)のことをよく分かってなかったので「大変だね」「大丈夫?」みたいなことを言っていましたね。結婚を決めてからは、東京公演は観に来ていましたが。本当に会う時間がなかったので、よく踏み切ったなと、今でも思います。
竹山;稔さんは千秋楽の日に白馬に乗って現れるような「星の王子様」でしたが、それについてお相手の方はどのような印象を持たれていたのですか。
稔:「えらいことをしてしまった」って、あとから気づいたみたいですよ。結婚式当日の記者会見は、配偶者が一般人という理由もあってやめました。でも情報を入手した、ファンの方々が会場に集まっていて、二人並んで歩いて移動する時、背の高い主人がファンの方側で、私がその奥側を歩いていたのですが、「見えな~い」と叫ばれてしまって……。洗礼を受けたというか(笑)。「すごい人と結婚したのかもしれない」と思ったようですね。
竹山:退団直後に家庭に入られた時はどんなお気持ちだったのですか。
稔:主婦の皆さんは偉いなと思っていました。私は専業主婦だった母を見ていたので、私には無理だと思っていたんです。逆にそういう母を見てしまったために、「主婦は完璧にしなきゃいけない」と焦りましたね。それで頑張りすぎて疲れちゃったこともありました。
タカラジェンヌって全部がすごいと思っていた時期もありましたけど、世の中の女性こそすごいと思います。その時代に順応して、きらめく場所やときめきを求めている。女性ってたくましいですよ。私は宝塚を辞めてからの方が美容などにもすごく気を使うようになりましたし、美意識が高い人を見て、おちおちしていられないとすごく感じます。
今も語り草の“白馬に乗って楽屋入り” 「怒られた」意外な人物とは?
竹山:話は戻りますが、今も語り草になっているサヨナラ公演千秋楽の“白馬に乗って楽屋入り”は、どういった経緯で実現したのですか。
稔:当時、退団する人に対してファン代表の方から「何か特別なものに乗られますか」という話をいただいていたんです。まみちゃん(真琴つばささんの愛称)は最後、スポーツカーに乗って登場しました。それで私は「そりゃ、王子様といえば白馬よね」って言ったら本当に白馬を探してきてくれたんです。今は、動物は禁止になりましたが(笑)。
でも後で池田理代子先生(「ベルサイユのばら」の原作者)に怒られました。「どうして事前に教えてくれなかったの。それなら観に行ったのに!」って。千秋楽の舞台は観に来てくださったのですが、(白馬で)楽屋入りする話まではしていなかったので……。
竹山:だって、オスカルといえばずっと白馬に乗っていますからね。
稔:でも笑ってしまうのは、オスカルも知らずに宝塚に入って、「ベルばら」に触れて「ついていけない」とか「辞めちゃおうかな」なんて思っていたのが、いろいろなめぐり合わせがあって、最後はそれを退団作品に選んだこと。面白いですよね。
竹山:オスカルって幼い頃から男性として育てられてきた男装の麗人ですから、男性そのものではないですよね。だからといって女性らしいというわけでもない。そうした繊細なキャラクターを演じられるのはどのような思いでしたか。
稔:私は男役を演じる時、男になるのではなく、人間の心を表現したいと思ってお芝居をしてきました。完成させた時も(「ベルばら」の舞台演出を手がけた)植田紳爾先生、谷正純先生に「“人間オスカル”が誕生した」と言っていただいたんです。
それまでは「ベルばら」の世界でも、やはり形式美というのをすごく重視してきたんです。もちろん、初代からの様式美というものは大切に引き継いでいるのですが、やはりそればかりでは現代に通用しない。そう思って、自分なりの解釈でやりました。それは私が「ベルばら」を知らないからこそできたものだと思います。
竹山:「ベルばら」を観るファンの方たちは、次にどんなセリフがあって、どんなダンスを踊って、次の場面はこういう展開になるというのを知っていますからね。
稔:先生からは、昔の様式美に添っていろいろな要求がありました。でも私は「男役をやっているオスカルと自分は一緒だと思うんです」と正直に伝えました。男として育てられたけれど、やはり男ではない。でも、男に負けじと強く生きたオスカルは、「男役」として闘ってきた自分とリンクしていました。だからそのまま、ストレートでいいんだと感じて、心地よく演じさせていただきました。