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“食を育む”ために…米在住日本人女性が加工食品から考える食べ物のあり方

公開日:  /  更新日:

著者:小田島 勢子

超加工食品は栄養価だけでなく心も「空っぽ」?

勢子さんが主宰するワークショップの様子。レシピだけではなく、作る素材や過程から自分たちで一つずつ頭と心に落とし込んでいく【写真:小田島勢子】
勢子さんが主宰するワークショップの様子。レシピだけではなく、作る素材や過程から自分たちで一つずつ頭と心に落とし込んでいく【写真:小田島勢子】

 人類が進化の過程で生み出した加工食品技術。元をたどれば、食料の保存や有効性を高め、いつまでも健康で豊かに暮らすことを目的に生み出されました。しかし、さまざまなニーズに沿った食材を簡単に手に入れられる今、命を救ったり、エネルギーを効率良く摂取できるようになったりと恩恵がある一方で、過剰摂取は病気の原因にもなり人間の心身が脅かされているという事実もあります。

 化学合成添加物を比較的多く含むとされるファストフードやインスタント食品。この中でも特に大量生産され、家庭で調理する際には使わない添加物や油脂などを過剰に加えたものは「超加工食品」と呼ばれます。

 冒頭で超加工食品はエンプティフードと表現されると話しました。これらの食品は栄養価が少ないから「空っぽ」という意味の「エンプティ」という言葉が使われているわけですが、私の考えでは栄養価と同じほどに「心が空っぽな食事」という気がしてなりません。

 ファストフードやインスタント食品を選択して食べている人たちの心は、必ずしも空っぽだというわけではないでしょう。なぜなら、それを食べて心も体も満たされる人はきっと多くいるはずだからです。私自身も家族でキャンプへ行った時、寒い朝に飲むインスタントの熱いスープがおいしいと感じますし、時々家族で頬張るハンバーガーはとてもおいしく感じます。

子どもに一番伝えたいのは食べ物への意識を持ち、自ら選択すること

生産者と顔を合わせて会話できるファーマーズマーケット【写真:小田島勢子】
生産者と顔を合わせて会話できるファーマーズマーケット【写真:小田島勢子】

 けれども、その超加工食品が作られている背景にはむなしさを覚えます。遺伝子組み替えによって除草剤や虫の被害にも耐えられ、人が極力手を加えずとも過酷な環境で育つ野菜、狭いケージの中で羽を広げることがでないまま一生を過ごす鶏、ベルトコンベアで運ばれる豚や牛の肉の塊……。

 過酷な、または自然ではない状況で育てられた農作物や家畜に無機質な化学合成添加物。過剰な調味料とともに機械がそれらを食品として形作り、私たちはそれをただただ食べる。そして残し、捨てる。食べ残しの包みがゴミ箱に捨てられている様子を街中で見る度に、これこそエンプティフードだと思ってしまうのです。

 私が「食を育む」というテーマで子どもたちに一番伝えたいのは、食べ物に関する正しい情報を知り、自分で判断選択をし、そこに気持ちを込めること。

 普段口にするものがどのように生産されているのかは、まずは関心がなければなかなか中身が見えてきません。関心を持ったなら、次は動植物を自分で育て、収穫するなど実際に行動に移してみる。自分で体験することが何かを学び、自分で選択できるようになる大切な機会であると思っています。

 前回のコラムで紹介した通り、私たち親子は先日、鶏をさばいて食べるという“命の勉強”をしました。私はこの体験を子どもたちへの最高のギフトだと思っています。食に限らず今後すべての選択に際して、この経験が心の参考資料になることを願わずにはいられません。

(小田島 勢子)

小田島 勢子(おだしま・せいこ)

ナチュラリスト。結婚を機に2004年に南カリフォルニア州へ移住し、3人の女の子を米国で出産。ロサンゼルスの片田舎でバックヤードに鶏たちと豚のスイ、犬のトウフとともに自然に囲まれた生活を送る。母になったことをきっかけに食や環境の大切さを改めて感じ、できることからコツコツと、手作り調味料や発酵食品、スーパーフードやリビングフードを取り入れた食生活をメインに、食べるものは「できるだけ子どもと一緒に作る」「残さない」がモットー。2015年に「RUSTIC」を設立。日本で取得した調理師の知識や経験を生かして食のアドバイザー、ライフスタイルのコーディネーターとして活動。日米プロスポーツ選手やアクション映画俳優の身体作りのアドバイザー、みそ、お酢、漬け物など発酵食品作りの講師、創作料理のケータリングなど幅広い分野で活躍。
https://rusticfarmla.com/