せっかく購入した車だけど…その後は処分することに

　意を決してその列に並んだ夫妻でしたが、20分ほど待ったところで夫のイライラが頂点に。結果、部屋へ引き返すことになってしまいました。

　そしてお昼過ぎまで待って再度駐車場へ。出庫の列は減った反面、今度は入庫待ちの列ができていました。すでに箱根の宿に予約をしていたため、20分ほど待って車を出しましたが、車内の空気は重苦しいものになってしまいます。

　帰ってきた翌日、入居当初に借りたタワマン外の駐車場に戻そうと連絡するも、すでに新しい借り手がいるとのこと。そこで新しい駐車場を探しましたが、通常の乗用車より大きい車が入る駐車場はそもそも数が少なく、ようやく見つかったのは徒歩10分の場所でした。

「これで夫がかなりキレちゃいまして……憧れの車だったはずなのですが、速攻で処分することになってしまいました。駐車場で出庫待ちをしている時、夫がボソッと『だから、安いマンションはダメなんだよ……』とつぶやいたのが聞こえた時が私にとっては修羅場。『このマンションがいいって言ったの、あなたじゃないの！』と、心の中で毒づいてしまいました。駐車場問題が片付くより先に、私が家を出る日の方が早い気がします」

　以前は毎週のように車で出かけていた夫妻でしたが、車を手放した今はすっかり出不精になってしまいました。そのせいか、夫婦仲も多少ぎくしゃくし始めているようです。

住人と仲良くなって内情を聞いておくのが一番　徹底的に調査を

「こうした駐車場の不満は、タワマン住人“あるある”なんですよね」

　そう語るのは、不動産業界歴20年以上の姉帯さん。これまでさまざまなタワマン物件を扱ってきた中で、多い苦情といえば駐車場についてのものだそうです。

「僕が聞いた中で一番ひどかったのは、自分の車が30分以上降りてこないという話。30分あれば、新幹線なら東京から小田原くらいまで行けますよね。そこまで待つ必要があるなんて、駐車場としてはどうなのか……。でも、これがタワマンに多い現実だったりします。

　こうした時間のロスや駐車場に大型車が停められないといったことが原因で、近年はタワマン住民の車離れが進んでいるとか。でも、これがまた問題なんです。駐車場を借りる人が減ると、駐車場料金という収入源が絶たれます。つまり、今後のメンテナンスに影響が及ぶ可能性もあるわけで、不良物件まっしぐらな負のスパイラルに陥りかねません。

　家族でマンションを購入したら大きな車に乗りたいというのは、自然に出てくる気持ちではないでしょうか。SUVが売れている時代に幅180センチ、高さ155センチ程度の小型車向け駐車場を作ること自体がどうなのかという気もしますね。

　自身が住んでいる物件のマイナスポイントをあえて語る人はそう多くありませんが、タワマンでは特に少ないので、こうした問題を避けるのはとても難しいもの。タワマンに住む際は、できれば住人と仲良くなって内情を聞いておくのが一番です。たとえ車を持つ予定がなかったとしても、徹底的に調べてからの購入をおすすめします」

　駐車場問題で出不精になり、夫婦仲の危機まで生んでしまったという何とも切ないトラブル。タワマンに限らず、物件購入を考えた際は隅々までチェックしておくことがやはり重要なようです。

（和栗 恵）

姉帯 裕樹（あねたい・ひろき）

「株式会社ジュネクス」代表取締役。宅地建物取引士の資格を持ち、不動産取り扱い経験は20年以上を数える。独立した現在は目黒区中目黒で不動産の賃貸、売買、管理を扱う「コレカライフ不動産」として営業中。趣味はおいしいラーメンの食べ歩き。