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オーストラリアの自然災害 山火事が最も恐ろしい理由とは
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2000年以降に大規模な山火事が2件発生 最も人的被害が大きい自然災害
オーストラリア大陸で雨が比較的多く降るのは、熱帯雨林が広がる北部から北東部、湿った海風が吹き農業が盛んな南東部と南西部の小さなエリアに限られています。衛星写真を見るとよく分かる通り、日本の約21倍ある広大な大陸のほとんどには、水資源が乏しく人が住むことができない、乾燥した赤い荒野が広がっています。
オーストラリアでは、数年間隔で大規模な干ばつに見舞われ、大規模なブッシュファイア(山火事)が発生します。山火事で燃えた種が飛び散って発芽する原産の植物も多く、山火事は植物生態系循環の一部。この国の生態系に組み込まれていると言えるでしょう。
しかし、人間にとって山火事はこの国で最も恐ろしい自然災害です。干ばつで極度に乾燥した森林で、真夏に摂氏40度以上の熱風が吹けば、自然発火した火は瞬時に数キロ先まで飛び、広大な森林を焼き払うまで燃え続けます。放火やタバコの火の不始末、バーベキューの火種、軍の実弾演習といった人為的な原因で山火事が広がるケースも。
これまでで最悪の山火事被害は、2009年2月に南部ビクトリア州で起きた「黒い土曜日」(ブラック・サタデー)で、173人が焼死し414人が負傷、3500以上の建物が全焼しました。また最近では、コロナ禍直前の19年末から20年初頭にオーストラリア東部の広大な地域で深刻化した「黒い夏」(ブラック・サマー)も。この山火事では34人が焼死し、長期間にわたって煙がシドニーなどの市街地を覆ったため、気管支の傷害による二次的な疾患によって多数の死者を出しました。
入植以来、オーストラリアにおける山火事の死者数は累計約800人といわれています。山火事は同国で最も人的被害が大きい自然災害です。
日本人の多くが住むシドニーやメルボルン、ブリスベンといった大都市中心部では、山火事の「燃料」となる森林が少ないので、被災する可能性はほとんどないかもしれせん。しかし、ワーホリ旅行者の仕事として人気がある遠隔地のファーム(農場)では、場所によってリスクは十分にあります。山火事はいったん燃え広がると、車で逃げても火の勢いの方が速くて間に合わないことも。
農村に住む際は日頃から山火事の最新情報をキャッチして、風向きから避難経路を把握するなど敏速に行動することを心かげましょう。
平坦な荒野が多いオーストラリア 鉄砲水や洪水も要注意
一方、大雨による鉄砲水や洪水にも注意が必要です。オーストラリアには一般的に平坦な荒野が多いため、地域によってはいったん大雨が降ると河川が氾濫しやすく、大規模な洪水被害に見舞われる可能性があります。
これまで国内で最大の被害を出した洪水は、東日本大震災やニュージーランド地震が発生する直前の2010年末から11年初頭にかけて、クイーンズランド州南東部で起きました。同州のロッキャーバレーで、急激な増水により津波のような鉄砲水が発生。濁流が市街地の車や人を押し流す映像がSNSに投稿されて注目を集めました。また、国内第3の都市ブリスベンでは高層ビル街が茶色い濁流で水没し、都市機能が停止。一連の洪水では35人が亡くなり、約2万人が住まいを失っています。
最近では今年初めから7月までに、国内最大の都市シドニーの西方ホークスベリー川流域で3回にわたり河川が氾濫し、住民が避難する洪水災害も起きています。シドニーでは、一般的に日本人の多くが住む市内中心部、北部や東部の郊外は強い岩盤の上に住宅地が開発されており、リアス式海岸の海にも囲まれているため、洪水のリスクはほとんどありませんが、河川に近いエリアや農村部に住む機会があれば注意は必要です。
次回はオーストラリアの電車やバス、車などの交通事情について解説します。
(守屋 太郎)
守屋 太郎(もりや・たろう)
1993年に渡豪。シドニーの日本語新聞社「日豪プレス」で記者、編集主幹として、同国の政治経済や2000年シドニー五輪などを取材。2007年より現地調査会社「グローバル・プロモーションズ・オーストラリア」でマーケティング・ディレクター。市場調査や日本企業支援を手がける傍ら、ジャーナリストとして活動中。