カルチャー
斎藤佑樹「高校、大学とあまり本を読んでこなかった」 読書量が増えた今、おすすめしたい一冊は?
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甲子園で活躍し、大学卒業後はプロ野球の世界に入った斎藤佑樹さん。2021年の現役引退後は「野球を通じて誰かの力になろうと目指す日々を、これからも続ける」として、「株式会社斎藤佑樹」を設立しました。あらゆる分野で自分らしく活動する人たちが、生き方のヒントを得た本について語るこの連載。今回、斎藤さんにご紹介していただくのは、CM撮影で出会った写真家の瀧本幹也さんが師匠の藤尾保さんと出版した一冊です。そこに浮かび上がる関係性から、「理想とする“人との付き合い方”を改めて確認できた」と語ります。
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尊敬する松坂大輔さんとのCM撮影 瀧本幹也さんに興味を抱くきっかけに
「藤井保 瀧本幹也 往復書簡 その先へ」(グラフィック社刊)は、師弟関係である写真家の藤井保さんと瀧本幹也さんが、写真と言葉でしたためた往復書簡集です。この本を知ったきっかけは、瀧本さんに僕の会社のホームページの写真を撮っていただいたことでした。
瀧本さんと最初にお目にかかったのはCMの撮影現場でした。出演させていただいた「キリン一番搾り」のCMも「ユニクロ」のCMも、どちらも瀧本さんが撮ってくださったものです。
CMの現場って何となくピリッとしている感じがありますが、瀧本さんは優しくてとてもやわらかい方です。初めてお会いしたにもかかわらず、何かに包まれている安心感がありました。あの時、尊敬する松坂大輔さんと初めてお酒を飲むということで緊張していたはずなのに。
松坂さんは、僕が甲子園を目指すきっかけになった方です。高校3年生の松坂さんの大活躍を見て、小学4年生の僕は甲子園に行こうと心に決めました。
プロの野球選手になってからもずっと憧れていた方。そんな人と居酒屋でビールを飲むCMなんて、こんな幸せなことはないのですが、緊張もしていました。でも瀧本さんの醸す、分かってくださっているという空気で、スッとなじむことができました。
一緒にいたいのは尊敬できる人 写真家2人の関係性が改めて教えてくれたこと
CMの現場でご一緒させていただいた時の写真がとても良く、僕もカメラにずっと興味を持っていたので、いつかこんな風に撮ってみたいなと思っていました。そんな瀧本さんのことをもっと知りたいと思い、東京の恵比寿で開かれていた瀧本さんと藤井さんの写真展(2021年秋開催)に伺ったんです。
1人で写真展や美術館に行くのはほぼ初めてでしたが、これもご縁だと行ってみたら、心がとても穏やかになりました。引退してからいろいろ忙しく、考えることもたくさんあったのですが、おふたりの写真は、そんな僕の心を落ち着かせてくれたんです。
この空間に何時間でもいられるなと思いました。もちろん写真もとても良くて、写真展に置いてあったこの本を帰り際に購入したというわけです。読んで「なるほど。こういうことだったんだ」と後から知ったというか(笑)。
瀧本さんは、藤井さんが1992年に撮られた「その先の日本へ。」というテーマの広告写真を見て、カメラマンを志したそうです。そして藤井さんのアシスタントを経て独立。2019年、おふたりはギャラリーの方から「写真と言葉による往復書簡」と1年後に開催予定の「二人展」を持ちかけられます。しかしコロナ禍に突入し、展覧会は延期になってしまった。
その中でも進行していた往復書簡は、2019年から2021年の日本を描写する大切な記録にもなりました。「二人展」のテーマやSNSの意味、写真送付の圧縮方法など思いの部分から技術的なことまで、忌憚のない意見のやりとりがとても自然で、おふたりは良い関係なのだなとうらやましく思いました。
藤井さんが往復書簡の冒頭で書かれた、「テーマ、コンセプトは重要ですが、最後は頭で考えた想定以上の何かが宿ることを期待して楽しみたいと思います。生理や、感情に正直に反応できる自由な心と肉体があれば、逆風も又心地の良いものです」という言葉が響きました。そしておふたりの往復書簡をキャッチボール、ノックに例えられているところも(笑)。
人との付き合い方として、メリットのあるなしを気にされる方がたまにいらっしゃいます。でも僕は、それが本当に苦手なんです。高名な人だから付き合うといった人間関係を、とても居心地悪く感じてしまうというか。僕はできれば、お互いに包み隠さず話すことができたり、尊敬できたりする方と一緒にいたいと思います。
そうしていくと付き合う人の幅はぎゅっと凝縮されますが、運が良いことに自分の周りにいる方たちは素敵な人ばかりです。藤井さんと瀧本さんがそうであるように、その人の本質的なところに惹かれて関係性を築き、その関係性が連鎖して世界が成立するようであったら理想的です。