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映画『ハウ』の池田エライザに“気づかない”理由とは 印象的な派遣社員役に至るまで

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

桃子を演じるために“池田エライザ”を払拭

 池田は2020年に『夏、至ること』で映画監督としてデビュー。またそれまでも歌番組などへの出演はあったが、2021年、改めてELAIZA名義で音楽活動も始めている。

『夏、至ること』を作るにあたり、池田は「この映画が誰かにとってポジティブな影響をもたらすものになること」を願ったと語っていた。ツイッターがそうであったように、手がけるに至った作品や事象には、彼女がそれをやらなければならない理由があるのだ。

『ハウ』に参加したいと思ったのも、きっと「伝えたいこと、伝えられるのではないかと思うこと」があると感じたのではないか。『ハウ』自体、ハウが各所で出会う人々とのエピソードを綴ったオムニバスのようなものだ。

(c)2022『ハウ』製作委員会
(c)2022『ハウ』製作委員会

 その一つひとつの物語の中に、第一次産業を持つ地域の高齢化、専門職の風化、シャッター商店街、震災時の原発事故による移住といじめ、ドメスティックバイオレンスなど、現代の日本が抱える問題が見え隠れするように描かれている。犬童監督は、そんな風にメインストリームとは別なところにさまざまな仕掛けを作り、それを印象的要素とすることに長けている。

 桃子も、いや池田も、ハウのようにそれぞれの問題に直面する人々に寄り添おうとしたのではないか。桃子が現状を変えたいと努力する様は、応援したくなり、また自分自身の問題としても考えさせられた。

 そんな桃子が、民夫と初めて飲みに行き、初々しくも素の姿を見せる“酔っ払い”ぶりがすこぶる良い。ほとんどアルコールをたしなまないという池田のあの表情は演技なのだが、人間の素こそ愛すべきものだということを実感させてくれた。

 池田は、桃子を演じるために“池田エライザ”を払拭した。だから出演していることに“気づかない”という現象が起きた。そう理解した。

『ハウ』2022年8月19日(金)公開 配給:東映 (c)2022『ハウ』製作委員会

(関口 裕子)

関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。