カルチャー
ブラピ主演『ブレット・トレイン』 米ティーンのアイドルが“大人の俳優”になる過程とは
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撮影中のキングを支えて励ましたブラピ
そんな風にティーンエイジャーの世界のスターとなったキングにとっても『ブレット・トレイン』は特別に刺激的な作品だった。その際たる理由は、何といってもブラッド・ピット。「彼との撮影はとても居心地の良いもので、この時間を共有できたことをとても幸運に思っています」とキングは語っている。
キングが、サンドラ・ブロックやマイケル・シャノン、真田広之ら名優たちの中でプリンスを演じることにナーバスになった時、ブラッドは「君ならできる。君がこの役を演じてくれて本当にうれしい」と励ました。それは大きな自信につながったと彼女は話す。
また撮影中、彼女を悩ませることが起きた時にも、ブラッドらは自身の経験を語り、彼女を励ました。その後、彼女はSNSを通じ、それに対する見解を自らの言葉で発表。その勇気を与え、正しい道を選ばせた『ブレット・トレイン』は、キングをより大人の俳優にした作品でもある。いや、主役として生きていくための心構えを教えた作品というべきか。
本作自体は、『アトミック・ブロンド』(2017)、『デッドプール2』(2018)、『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』(2019)のデヴィッド・リーチが監督した“陽気なサイコパス”たちの映画だ。
『ザ・プリンセス』で大概のアクションを演じてみせたキングだが、350キロで疾走する超高速列車の中ではそれを封じ、人間心理を逆手に取って、過激なアクションを繰り広げる殺し屋たちを掌握していく。本作は、それを気楽な気持ちで楽しむ作品でもある。
プリンスの行動で一つ賛同できるのは、人生の主役になりたければ、それを勝ち取れるのは自分自身だということ。そのためには時に危険な賭けに“乗る”必要があるし、賭けに勝つための綿密な計画が必要だ。そうしてさえも賭けに成功するかどうかは運しだい。
プリンスが人生の主役(キング)になるための賭けの場として選んだのは“ブレット・トレイン”。そこに集うばかばかしいまでに真剣な殺し屋たちが、息もつかせぬスピードで大いに楽しませてくれるのは間違いない。
『ブレット・トレイン』9月1日(木)全国の映画館で公開 配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント (c)2022 Sony Pictures Entertainment(Japan)Inc. All rights reserved.
(関口 裕子)
関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)
映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。