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100万円入る財布に変えて文学賞受賞の開運経験も 節約投資ネタ満載の「財布は踊る」
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50万部の大ヒットとなった小説「三千円の使いかた」などで知られる作家・原田ひ香さん。最新作「財布は踊る」(新潮社刊)は7月の刊行直後に増刷、さらに3刷と版を重ねる好調ぶりです。“家族小説”だった前作と比べてシビアな状況も描かれるなど、テイストは違いますが、前作と同じくお金にまつわる節約術、投資術などの小ネタも盛りだくさん。ノウハウや本の読みどころ、財布にまつわる経験などについて、お話を伺いました。
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「ルイ・ヴィトン」の長財布に導かれる6人の物語
「財布は踊る」にまず登場するのは、専業主婦の葉月みづほ。会社の同僚だった雄太と結婚し、一人息子にも恵まれて穏やかに暮らしています。その一方で、みづほはいつか憧れのハワイに行き、長年夢見ていた「ルイ・ヴィトン」の長財布を買おうと密かに節約生活を続けていました。
雄太から渡される月5万円の生活費のうち、食費を2万円に抑えて2万円を貯蓄。食材は徹底的に安売り品を活用する他、服は母親からおさがりをもらったり、フリマアプリで値切って買ったりと、無駄遣いをせずにお金を貯めてきました。
そして目標額の60万円に到達。家族でハワイに行き、念願の長財布を手に入れます。しかし、帰国後間もなく、夫が持つクレジットカードのリボ払いによる“借金”が発覚。金策のため、やっと手に入れた「ルイ・ヴィトン」の財布を手放すことになります。
その財布を手に入れたのは、大学を中退後、バイトを続けながらFXのマルチ商法に手を染めている水野文夫でした。ある時、水野は家の近所で中学時代の同級生、野田裕一郎と出くわします。新卒で会社に就職していた野田は後日、FXの情報商材購入の契約をすると水野を呼び出しますが、実は野田は株の投資で大損し、会社を辞めていて……。
他にも、キャリアと私生活が行き詰まった女性ライターの善財夏実、大学の奨学金返済に追われるアラサーコンビ、非正規雇用の平原麻衣子とカラオケボックスで働く斉田彩という、お金に困った6人のキャラクターが登場。その間を1つの長財布がめぐり、それぞれの人生の光と影を映し出す痛快ストーリーです。
「ある物がいろいろな人の間を渡っていくような話が好きで、お財布を中心にしたら面白いんじゃないかと思いました」と着想について語る原田さん。次々と持ち主を変える青磁の壺と、その持ち主たちの人生を描いた有吉佐和子さんの小説「青い壺」のような話をずっと書きたいと思っていたそうです。
また、企画を立てたのは新型コロナウイルス流行前でしたが、執筆が始まってからはコロナ禍の影響も受けています。
「本来はインバウンドの外国人が手に入れて、母国に持ち帰って……と海外でもお財布が回る話も考えました。例えば、一時住んだことがあるシンガポールでは、婚約すると住宅ローンが組めるという制度があって、『一緒に住宅ローンを組もう』というプロポーズの言葉もあるほど。お金にまつわる話は国によって違うので、そういう話も入れたかったのですが、コロナが始まって、気分的にちょっと違うかなと」