仕事・人生
車いす生活から演劇界の異才へ 根本宗子さんが駆け抜けた日々 当面の新たな目標とは
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岸田國士戯曲賞に4度ノミネート 自身の戯曲作品は映画化も
それからの根本さんは、多くの佳作や秀作を世に送り出してきました。その事実は、新人劇作家の登竜門とされる「岸田國士戯曲賞」へのノミネート回数からも分かるでしょう。根本さんは2016年に第60回の最終候補となり、第63回からは3年連続とこれまで計4回ノミネートされました。しかし、それでもあまり欲はないようです。
「この賞は若手の登竜門ですから、もう年下の方に譲りたい気持ちです。意外と取っていない(著名な)劇作家さんも多いので、いいかなって思っていますが、いただけるタイミングがあるのならと。賞レースにまるで興味のない人間なので……(笑)」
劇団「月刊『根本宗子』」の旗揚げから、小演劇界を牽引する若手として早くから注目され、今年で13年目。活躍の幅は広がる一方です。今年4月には、2013年に書き下ろした戯曲「今、出来る、精一杯。」を小説化(小学館刊)。来月10月公開の映画『もっと超越した所へ。』は、2015年に初演された根本さんの戯曲を映画化したもので、根本さん自身が脚本を手がけました。さらにこの小説版(徳間書店刊)も9月8日に出版しています。
「年月が経ちすぎていたので、『もっと超越した所へ。』映画化、小説化のお話をいただいた時は耳を疑いました(笑)。近年、似たようなタイトルの作品を書いたので、『本当にこの作品ですか?』って3回くらい確認したほど。でも声をかけていただいた時は、すごくうれしかったです」
「もっと超越した所へ。」は、甘え上手な問題児と交際する4人の女性が、幸せを掴もうともがき続ける恋愛模様を描いた作品。これにあたり根本さんは、7年前に書いた脚本を改めて読み直しました。
「正直、今はこれだけの勢いがないので、『うわっ、すごい勢いがある』って感じました。良くも悪くもすべて前のめりでセリフを書いています。今は作家としてもう少し違う書き方ができるようになったので、これほど前のめりでは書きませんが、あの頃はこれしかできなかったのですね。
客席の胸ぐらを掴みに行っているような、何でも言ってやれみたいな感じがして、これだから面白い作品に仕上がったんだと冷静に思ったんです。そのため、小説版を書くにあたっては、なるべくこれをなくさないようにしなければいけないと決めました」
主人公はダメ男の面倒を見る衣装デザイナー。2015年の舞台公演時は根本さんが、映画版では前田敦子さんが演じました。根本さんにとって前田さんは、握手会に何度も参加するなどかなりの“投資”をした“推し”。そんな存在が主役を演じることについては「ついに演じてもらう日が来ました」と感慨深げです。
代表作にしたいのは日本オリジナルのミュージカル
プライベートでは最近、お寿司の刺繍に凝っているという根本さん。お仕事では活躍を続けていますが、「最終的な夢は私にも分からない」とも語ります。
とはいえ、当面の目標としてはオリジナルのミュージカルを挙げました。
「英語の歌詞を邦訳すると単語の位置が変わり、メロディと歌っているところが合わないことがよくありますよね。なので日本人のアーティストとタッグを組み、近年はオリジナルの音楽劇を積極的に作って模索しています」
演劇界の異才は、「ミュージカル好きの日本人は大勢いるので、ぜひ挑戦したい」と新境地での成功を夢見ています。
メイク:小夏
スタイリスト:田中大資
衣装クレジット:tanakadaisuke
1989年生まれ、東京都出身。劇作家、演出家。19歳で劇団「月刊『根本宗子』」を旗揚げし、独特な物の見方で描かれる劇作で高評価を獲得した。2016年に初めて岸田國士戯曲賞の最終候補となってから、現在までにノミネート4回。著書に「今、出来る、精一杯。」(小学館刊)、「もっと超越した所へ。」(徳間書店刊)がある。
(河野 正)