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伝統文化を広める思い 熊野筆から地域や日本を元気に 30代女性の挑戦

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・出口 夏奈子

もろく崩れやすい広島の山地に苗木を贈るプロジェクトも

広島市内を一望可能な二葉山をトレッキングする「Asageshiki」【写真提供:三村理紗】
広島市内を一望可能な二葉山をトレッキングする「Asageshiki」【写真提供:三村理紗】

 そしてもう一つ、二葉山に入ったことで気づいたことがありました。それは予想以上に森が荒れていたことでした。

「二葉山は広島駅から徒歩10分ほどのところにあって、とても景色がいい場所です。でも実際に登ってみると、展望台という場所からは市内の景色の一部しか見えなくて……。予想以上に森が荒れていたんです。荒れ果てたところに手を加えて整備すれば、観光客に訪れてもらえるきっかけを作ることができるのかもしれないと思ったんです」

 許可をもらい荒れた部分を伐採。すると瀬戸内海まで見えるようになり、宮島の景観が現れました。空気のきれいな早朝に市内を一望できる絶景スポットに行けることも、二葉山をトレッキングする「Asageshiki」ツアーの人気の一つです。

 荒れた部分を整備したことで、思わぬ副産物もありました。一部の森の中に太陽の光が差し込むようになり、どんぐり(カシの木)から芽が出始めたといいます。

「実は、二葉山は日本一のどんぐりの群生地になっているんです。神社の参道に芽が出てしまったので、いつかは伐採しないといけないのですが、せっかく芽生えた命を有効活用したいと考え、植樹活動をすることにしました。ただ、どうせならこういった日本の森の課題や実情を多くの人に知ってもらいたいと思いプロジェクトを立ち上げました」

 どんぐりの里親になってもらう「贈ろう森プロジェクト」を発案。芽が出たばかりのどんぐりの苗木を1年間、自宅で愛着を持って育ててもらい、木を必要としている地域に贈ってもらう循環型のプロジェクトです。

 広島の山地は元々、花崗岩からできており、雨や風にさらされると砂のような土に変化、水を含むと非常にもろく崩れやすくなる性質を持っているとされています。記憶に新しいのは、2018年に広島県を襲った豪雨による土砂災害。三村さんはそういった山地に苗木を贈り、「地盤を強くしていきたい」と語ります。

広島から全国へ、地方人口の創出も

三村さんは「贈ろう森プロジェクト」も立ち上げ【写真提供:三村理紗】
三村さんは「贈ろう森プロジェクト」も立ち上げ【写真提供:三村理紗】

 見据える先には、広島から解決する日本の環境問題があります。

「こういう課題は広島だけじゃなくて、全国どこにでもあると思うんです。苗木を通して、いかに都市部の人たちと地域・山間部の人たちをつなぐか。苗木に名前を付けてもらうんですが、その苗木を育てて贈ったら、『あの苗木は今どうなっているのかな』って気になると思うんです。そうしたら、その苗木を贈った地域に観光に行くことで、地方地域の関係人口を創出することにつながっていくんじゃないかなと考えています」

 地域が抱える課題を見つけ、そこからMy Japanが企画を考案し、企画を通して解決していく。地元・広島のために何かしたい。そんな思いが、三村さんとMy Japanを突き動かしているのです。

◇三村理紗(みむら・りさ)
広島県生まれ。実家は日本が世界に誇る伝統工芸品の一つで、職人が一本一本手作業で作る「熊野筆」を制作する会社。大学では英語を学び、海外留学を経験するが、卒業後は美容業務品を販売する会社に就職。新規開拓など営業職に従事した。その後、家業に転職。留学時代に改めて知った日本の伝統文化の良さを次の世代に伝えるために、2018年に一般社団法人My Japanを設立する。早朝ツアーの「Asageshiki」や苗木を育てて贈る「贈ろう森プロジェクト」をはじめ、「広島江戸祭」など日本の伝統と文化を広島から世界に伝える活動をしている。

(Hint-Pot編集部・出口 夏奈子)