カルチャー
宮沢りえが『アイ・アム まきもと』にもたらすリアルとは 50代を前により光る存在感
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鮮烈な印象を与えた10代から、誰もが認める名俳優になった現在まで。宮沢りえさんの見事な変化を、自身の成長とともに見守り続けてきたという人は多いでしょう。美しさと唯一無二の大きな存在感は、今や観客に「宮沢さんが出演しているなら大丈夫」と思わせてくれるまでになりました。映画出演最新作『アイ・アム まきもと』でも、やはりそのパワーは確かなようです。映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。
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主演作品はもちろん、助演作品でむしろ大きく感じる存在感
映画を観ている時の“自分”がどこにいるのか、意識したことはあるだろうか? 一番幸せなのは、たぶんどこにいるかなど意識せず、最後までその物語の世界を堪能することだ。でも映画は時々いろいろな理由で、観客が映画の世界に居続けることを拒む。
せっかく見に行った映画で現実世界へと意識を引き戻される。そんな無粋なことになりたくない。そんな気分の時に心がけているのが出演者を確認すること。誠に勝手なリストだが、私が映画を“楽しく”観るためのそのリストに、宮沢りえがいる。彼女の名は、私にとって大きな保険だ。
主演作品はもちろんだが、彼女の存在感を最近むしろ助演作品で大きく感じる。水田伸生監督、阿部サダヲ主演の最新出演映画『アイ・アム まきもと』もそんな1本だ。市役所の“おみおくり係”として、孤独死をした人々に仕事の垣根を越えて寄り添う牧本(阿部サダヲ)の物語。新任の部長から部署の閉鎖を申し渡された牧本が、最後に担当する老人・蕪木孝一郎(宇崎竜童)の人生をたどっていく。
その過程で出会うのが、漁港で居酒屋を営む元恋人の今江みはる(宮沢)。妹とその幼い子どもの面倒を見ながら、漁師たちでにぎわう居酒屋みはるを切り盛りする。蕪木はみはるの恋人であったが、彼が転がり込んできた2年は波瀾万丈。牧本とみはるの会話から、彼女は蕪木のせいで普通なら理解できないような大波をかぶったことがうかがえる。
それでも地に足をつけ人生を坦々と歩む、みはる。ひどい男の行いを許す……。そう聞くと「ファンタジーだ」と言いたくなるが、宮沢が演じるとリアルなのだ。みはるは居酒屋の客をあしらっているだけ、特別な芝居場はない。でもたぶんそこにはイーブンの痛みがあり、そのように落ち着くに至る経緯があったことを感じさせる。
宮沢が助演する作品が増えていったのは、舞台への出演が増えていった2007年頃から。野田秀樹や長塚圭史、デイヴィッド・ルヴォーらの演出作品で面白いコラボレーションを見せ、やがて「野田秀樹さんの作品にばかり出演して実は嫉妬していた」という蜷川幸雄作品にも出演する。そんな宮沢の初期の舞台では、強烈な個性を放つ演技者であり演出家である坂東玉三郎も影響を与えている。