カルチャー
宮沢りえが『アイ・アム まきもと』にもたらすリアルとは 50代を前により光る存在感
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自分が受け取ってきたものを、次の世代へも渡そうという気持ち
近年の宮沢は、松永大司監督『トイレのピエタ』(2015)、中野量太監督『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016)、坂下雄一郎監督『決戦は日曜日』(2022)と若手監督の作品にも積極的に出演している。
もちろん脚本の面白さ、新たなる挑戦の舞台になる予感があってのことだと思うが、間もなく50代に入ろうとする宮沢には、これまで自分が受け取ってきたものを、次の世代へも渡そうという気持ちがあるのではないか。
日本文化のルネッサンス期、安土桃山時代を描いた勅使河原宏監督『豪姫』(1992)に出演した時、宮沢は共演者の仲代達矢や勅使河原監督に、演じる上で、生きる上で、さまざまなヒントをもらった。嫌なことは嫌だと言わなければいけないこともこの時に教わったと語っている。「10年後、20年後に役立ってくることを教えてもらっている」のだと。
『たそがれ清兵衛』、是枝裕和監督『花よりもなほ』(2006)では日本文化や着物、畳など日本古来の生き方についても学んだ。学んだというより、宮沢の場合、その時代を生きたという感じだが。そんなことを共演する若手にも伝えているのだろう。『湯を沸かすほどの熱い愛』で共演した杉咲花がそのことを教えてくれた。そうして成長していく杉咲花もマイ・リストの若手部門に登録済みだ。
そんなリストのようなものは誰にでも存在すると思う。たぶん『アイ・アム まきもと』をご覧いただくと、そう考える一端を理解してもらえるのではないか。
よく見ると、牧本を演じる阿部が、話の本筋とは違うラインで宮沢に小技を繰り出す場面がある。気づかないかもしれない小さなアクションで。それを宮沢は、リアルさでコーティングした上で、笑いに昇華させている。
『アイ・アム まきもと』全国公開中 配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
(関口 裕子)
関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)
映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。