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オーストラリアのビール市場 実は日本企業2社の寡占状態 代表銘柄やトレンドは?

公開日:  /  更新日:

著者:守屋 太郎

主な伝統的ビールの銘柄は?

パブでは、樽に入ったビールが冷却パイプを通り、タップからグラスに注がれる【写真:守屋太郎】
パブでは、樽に入ったビールが冷却パイプを通り、タップからグラスに注がれる【写真:守屋太郎】

 2社はともに日本企業が100%出資する現地子会社ですが、「アサヒスーパードライ」や「キリンラガービール」が酒屋やパブを席巻しているのかというと、まったくそうではありません。

 これらの日系ビールは、人気がないわけではないですが、輸入ビールのプレミアムブランドとして限定的に販売されている程度です。キリンやアサヒ、サントリー、サッポロといった全国的ブランドの人気が高い日本とは異なり、オーストラリアでは州ごとに特定のブランドのビールが、それぞれの地域で集中的に飲まれているという特徴があります。沖縄の「オリオンビール」のような地域ビールがそれぞれの地域にある、といえば分かりやすいでしょうか。

 国内最大の都市シドニーがある東部ニューサウスウェールズ(NSW)州では「トゥーイーズニュー(Toohey’s New)」、第二の都市メルボルンがある南東部ヴィクトリア州では「ヴィクトリア ビター(Victoria Bitter、通称ブイビー)」、北東部クイーンズランド(QLD)州では「フォーエックス(XXXX)」といった風に、各地域の伝統的ブランドのビールが人気なのです。

 例えば、NSW州のパブではどこでもトゥーイーズニューが飲めますが、フォーエックスを置いていない店は多いです。逆にQLD州のパブはフォーエックスばかり。筆者が同州の店でトゥーイーズニューを注文したら、店員に「何それ?」とキョトンとされたことがありました。

 これらの伝統的ビールは「スタンダードビール」と呼ばれ、いずれもアサヒ、キリンの2社系列の醸造所が製造していますが、会社名はどこにも書かれていません。よほどビジネスに詳しい人でない限り、日本の会社のビールだと意識して飲んでいる人はいないでしょう。

最近のビールのトレンドは?

 オーストラリア人のビールのブランドに対する忠誠心は非常に高く、かつては特定の伝統的なビールを一生飲むという人が多数派でした。ところが、近年は「リトルクリーチャーズ(Little Creatures)」や「フォーパインズ(4 Pines)」、「ベントスポーク(BentSpoke)」といったクラフトビールの人気が高まっています。大手メーカーがクラフトビールの新ブランドを立ち上げたり、醸造所を買収したりする動きも出ています。

 最近ではちょっと高級な酒屋に行くと、店頭の目立つ冷蔵庫にはクラフトビールや輸入プレミアムビールしか置いていなくて、トゥーイーズニューなどの伝統的ビールは奥の倉庫にしかなかったりします。若い世代からは、「ホームパーティーなどにビールを持参する時は、ブイビーやトゥーイーズニューじゃ恥ずかしい。こだわりのクラフトビールじゃないと」といった声も。

 シドニーでは、工場でクラフトビールが飲めるマイクロブルワリー(小規模醸造所)や、クラフトビールに特化したパブも増えています。街でふらりと知らないパブに入り、いつものブランドを注文した時、店員に「うちはクラフトビールしか置いてないんで」とか言われると、昭和世代の筆者は悲しみを感じますが、それも時代の流れなのでしょう。

 次回は、オーストラリアの英国式パブの魅力や楽しみ方などについて解説します。

(守屋 太郎)

守屋 太郎(もりや・たろう)

1993年に渡豪。シドニーの日本語新聞社「日豪プレス」で記者、編集主幹として、同国の政治経済や2000年シドニー五輪などを取材。2007年より現地調査会社「グローバル・プロモーションズ・オーストラリア」でマーケティング・ディレクター。市場調査や日本企業支援を手がける傍ら、ジャーナリストとして活動中。