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カルチャー

「触る」と「触れる」の違いとは 人と距離を取る生活に違和感のある人が読みたい一冊

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

教えてくれた人:OliviA

ラブライフアドバイザーのOliviAさん【写真提供:OliviA】
ラブライフアドバイザーのOliviAさん【写真提供:OliviA】

 人が密集する場所には長居せず、会食なども控えめにして、何かに触ればすぐに消毒。新しい生活様式の定着により、コミュニケーションについて考える機会も増えました。中でもスキンシップが減ったという人は多いでしょう。そこで気になるのはスキンシップという行為の意味。ラブライフアドバイザーのOliviA(オリビア)さんは、“心と体のつながり”を研究する身体心理学の著作を通じて気づきを得たと語ります。あらゆる分野で自分らしく活動する人たちが、生き方のヒントを得た本について語るこの連載。OliviAさんの最終回は、「触る」「触れる」という行為の新しい見方を提供してくれる一冊です。

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スキンシップを切り口にした分析から現代社会が見えてくる

 すごく面白い本で、たくさん付箋を貼りながら読んでいます(笑)。出会ったきっかけは、2021年にオンラインで開催された「タッチケア・フォーラム」。同会は、心と体の関連性を研究する、いわゆる医療研究の学会発表みたいなもので、この著者の伊藤亜紗さんは登壇者の一人でした。伊藤さんのお話がとても面白かったので、学会後に本を購入しました。

「手の倫理」(伊藤亜紗著/講談社刊)
「手の倫理」(伊藤亜紗著/講談社刊)

 伊藤さんは、“心と体のつながり”を専門とする研究者です。「目ではなく触覚が生み出す、人間同士の関係の創造的可能性を探る」ため、四肢切断をした方や、視覚、聴覚に障害を持つ方々とふれあい、多角的に切り込んでいき、どのように体を使いこなしているのか、どういうコミュニケーションをしているのかを研究されています。

 そんな方々とふれあう中で得たエピソードをふんだんに取り入れた、伊藤さんのトークはとても面白くて魅力的。また、スキンシップを切り口に分析しているため、そこから現代社会が見えてくるのも興味深いところでした。ユーモアもあり面白い上、触る・触れる行為における新しい見方を知ることができる本でもあります。

「触る」と「触れる」の違い…そこに心は介在するか?

 私が特に興味を持ったのは、「タッチ」という言葉の概念について。タッチには「触る」という意味と「触れる」という意味がありますよね。どちらも同じ漢字を使いますが、「触る」と「触れる」では意味も印象も異なります。

「触る」の場合は一方を弱体化したもの、または物体として見ている印象があります。例えば病院の視察の場合、「触診」は「触る」の意味となり、そこに双方の感情的なコミュニケーションはありません。

「触れる」は、お互いの心が向き合っていて双方が心を通わせている状態での行為。性愛の場合、心が通い合っているので「触れる」となります。しかし、痴漢行為は「触る」。そこに心は介在していないわけです。「不埒な手」という章には、視覚で確認して肌触りが良さそうだから思わず触ってしまったという「触覚」は、抗いがたい欲望と結び付いていると書かれています。

 触れてみたいという気持ちや触れてしまう手は動物的なものであり、人間生活に最も必要とされる「倫理」が存在していないわけです。「スキンシップ」と「触覚」が、人間に「豊かさ」と「暴力」をもたらすものである、という指摘はとても興味深いものでした。