Hint-Pot | ヒントポット ―くらしがきらめく ヒントのギフト―

仕事・人生

宝塚退団後は「生きる屍」 元宙組男役・悠未ひろさんが再起を決意するまでの日々

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・瀬谷 宏

インタビュアー:竹山 マユミ

退団当時の思いやこれからの夢について語った悠未ひろさん【写真:荒川祐史】
退団当時の思いやこれからの夢について語った悠未ひろさん【写真:荒川祐史】

 長身を生かしたダイナミックなダンスや歌唱力などで、多くのファンから愛されていた元宙組男役の悠未ひろさん。それだけに、宝塚を離れることは簡単に決意できなかったそうです。宝塚歌劇団の世界をOGたちの視点からクローズアップする「Spirit of タカラヅカ」、今回は芸能生活25周年を迎えた悠未さんの最終回です。退団前後の心境やその後に導かれた運命の出会い、新たな世界に踏み出した当時の思いなどについて、宝塚をこよなく愛するフリーアナウンサーの竹山マユミさんがお話を伺いました。

 ◇ ◇ ◇

サヨナラ公演後は「この袴を脱ぎたくない」

竹山マユミさん(以下竹山):自ら「主役をやりたい」と上級生の前で話し、見事に有言実行された悠未さんの宝塚への愛情はあふれんばかりのものだったようですね。そんな中で、ご卒業はどういうタイミングで決められたのですか。

悠未ひろさん(以下悠未):宝塚が大好きすぎて、私の中にはあまりそれ(卒業)がありませんでした。ここにいられるものならずっといたいと。宝塚は新陳代謝が活発で、上級生が下級生にアドバイスをして大きくなっていく仕組みが素敵なところですが、自分について考えた時に、ここから出て新しい世界へ……とは思えなかったのです。

 そんな中で、「風と共に去りぬ」のアシュレーという役をさせていただきました。今までやったことのないようなキャラクターの役です。それまでは悪役や憎まれ役といったキャラが強めの役もやってきましたが、宝塚に必ず出てくるような“正統派二枚目”の役はありませんでした。そこでアシュレーをやる時、これを追求してやり遂げれば完全燃焼できると思って務めたのです。

竹山:アシュレーはどこまでも優しく、受け止める役です。本当にいろいろな役を経験された中で、この役を突き詰めようという感じだったのですね。

悠未:ファンの方などからは、私の演じる強い役が好きだという声が多かったので反対意見もたくさんあり、その気持ちは自分も同じでした。でも、これに挑戦することが自分にとっての締めくくりになると思ったのです。やはり悪役などの方が表現の方法や雰囲気作りの面ではエネルギーを放出できるのですが、アシュレーという受け身の役のエネルギーの使い方は、今までの自分の芝居の経験とはまったく違ったので、初の経験でした。

竹山:悠未さんは83期最後の卒業生でした。宝塚をご卒業された時はどのようなお気持ちだったのですか。

悠未:サヨナラ公演の千秋楽の日は袴を着て、最後に大階段を降りた後も袴姿のまま外でパレードをして、ファンの方にお別れをしました。その日は袴を脱ぎたくなくて。「これを脱いだら終わっちゃう」みたいな感じで。往生際が悪いですよね(笑)。他の今までの退団者のお話では「やり切った~」みたいなことをよく聞きますが、私は「この袴を脱ぎたくない」と。その辺りは記憶にないほど自分の中でさまざまな葛藤があり、気づくと日付が変わっていました。

 翌日からは「あ~、終わっちゃった」といった虚無感が半端なく、体が空洞のようになってしまって。「私はこれからどうしたらいいんだろう」と。その時の自分は“生きる屍”でした。生きているのか、生きてないのか。「一回、人生終わった」って言っていたら「大げさだよ」とも言われましたが、とにかく喪失感が襲ってきました。