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令和がん患者のキーワードは「我慢しない」…がんサバイバー笠井アナが訴える理由とは
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医師も人間…医療現場重視者へのメンタルケアも非常に大事
――エデ医師は、看護師とのブリーフィングの時、自分がつらかったことをそれぞれに吐露したり、歌を歌うなど、医療現場の方々のメンタルケアみたいなことをされていました。日本の病院ではなかなか難しそうですが、演じられたサラ医師の病院では実際に行われているんですよね?
とても大事なことだと思います。例えば、東日本大地震で警察官や自衛隊の皆さんがうつ状態になった。これは惨事ストレスといって、被災者ではないけれど、被災現場に行って遺体処理などストレスフルな経験をすることで、精神的なダメージを受けてしまう。僕も東日本大震災の報道では、2日目から1か月くらいいたので惨事ストレスを経験しました。被災者の方と同化してしまい、途中で涙が止まらなくなったり、いろいろなことがありました。
そこから脱するにはカウンセリングが必要なわけです。後は時間。でもこれまで、医療従事者がカウンセリングを受けるという話は、あまり聞くことがありませんでした。それは、患者との間に線を引いて、その領域に踏み込まないようにしてきたからなのかもしれません。
しかし、今は、看護学校でも「患者さんと一緒に泣いてもいい」と教えるそうです。そうなると、医療者に対する精神的なケアはとても大事なこと。患者に寄り添う看護を行う病院ならなおさらだなと思います。あのシーンも重要なことが描かれているなと思いました。
――寄り添う医療を心がけていますが、一方でエデ医師は、バンジャマンに別れの挨拶をして、きちんと休みを取り、遠方での結婚式へと出かけていきます。もちろんそれを詫びるでもない。仕事とプライベートの線引きがあるのもいいなと思いました。
患者さんが入院中でも、主治医はゴルフ行っているとか日本でもありますよ。先生も人間だし、プライベートもある。でも我々は、医師とは24時間スタンバっているものだと思ってしまう。そろそろ本当に是正していかなければいけない重要な視点だと思いました。
それに映画として、最期がエデ医師との別れになると主題がボケてしまう。先生はいない方がいいです。そこは、エマニュエル監督がうまいなと思いました。エデ医師の存在があまりにも大きいので、彼がいると母と息子、孫の話にならない。
――エデ医師は、とても感動的な景色の中、車を走らせています。あの美しさにもちょっと驚きました。
最初観た時は気づきませんでしたが、最後、エデ医師に連絡事項を電話で伝えた看護師のカットで終わるんですよ。「連絡したわ」という感じで。普通はエデ医師が車を走らせるきれいな風景で終わって、クレジットを上げるような気がする。でも中途半端な看護師の画で終わる。そこでブラックアウトして音楽とクレジットが流れる。
メロドラマと言いながらも、エマニュエル監督は最後にリアリズムを入れてくる。監督は「これはメロドラマ」と言っていたのに、ここで終わってまた次の患者に向き合うリアルな着地。なかなかのクールな映画だなと思いました。メロドラマでウェッティなところを柱としながらも医療サイドの現実を見据えている。すごい作品だなと思いました。
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(関口 裕子)
関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)
映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。