カルチャー
“居場所”を見つけた大島優子 『天間荘の三姉妹』で“ある種の重み”を感じる理由とは
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今月17日に34歳の誕生日を迎えた大島優子さん。子役からAKB48のセンター、そして俳優へと変化を続けています。それまでの過程は順風満帆にも見えますが、AKB48からの卒業後は自身が何者なのかと考える日々もあったそうです。そしてさまざまな役に挑戦し、1年間の米国留学へ。映画ジャーナリストの関口裕子さんは、帰国後の活躍から「大きな変化」があったように感じるそうです。映画最新出演作『天間荘の三姉妹』を軸に、そんな大島さんの変化を解説していただきました。
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現世を離れた人々が宿泊する不思議な旅館の物語
人は何のために生きるのか? 結論を導くのが難しい問い。だからこそ一生をかけたテーマになるのだろう。
「自分は何のために生きているのか?」という答えを知りたいと思うのは、それが生きる場所を確保することにつながるからだ。もちろん理由など分からずとも、生きる権利はすべての人間に平等にある。ただ「ここにあなたが必要だ」と強く求められることは、人が生きる上で力強い支えとなる。
単体で立っているところに強風が吹き付ければ揺らぎやすい。だが、支えがそこにあれば、幾分、強度は増すだろう。人という字が、支え合っているように見えるイメージ。だが、支えは人とは限らない。自分の持つ技術や知識、文化、構築力、推進力、優しさなども支えになってくれるだろう。
そしてそれらは、何のために生きているかを考える補助的役割も果たし、ここが居場所だと人に感じさせる“何か”を与える。
「スカイハイ」(集英社刊)で知られる漫画家・高橋ツトム(※「高」ははしごだか)原作、北村龍平監督の映画『天間荘の三姉妹』に登場する老舗旅館「天間荘」を切り盛りする長女・のぞみ(大島優子)を見ていて、そんなことを感じた。
老舗旅館「天間荘」は、天界と地上の間にある海辺の町・三ツ瀬の丘の上に建つ。宿泊客はそれぞれの理由で現世を離れており、ここで天界に旅立つか地上に戻るかを考える。旅館を切り盛りするのは長女・のぞみ(大島)。次女・かなえ(門脇麦)は外で働き、母で本来は大女将である恵子(寺島しのぶ)は夫に逃げられて以来、昼間から飲んだくれている。
この旅館にイズコ(柴咲コウ)という謎めいた女性に送られ、少女・たまえ(のん)がやってくる。客であって、客でないような存在となるたまえを加え、この映画はこの旅館を舞台に生きること、そして人を許すことについて描いていく。
“走馬灯”を眺める宿泊客たち その心を導く若き女将
原作となった「天間荘の三姉妹-スカイハイ-」(集英社 ヤングジャンプ コミックス DIGITAL 刊)は、高橋ツトムの「スカイハイ」のスピンオフ作品だ。だが、2つの作品のテイストは大きく異なる。
「スカイハイ」は、不慮の災難によって臨死状態にある人物が、その死の真相を知り、「恨みの門」の番人イズコが出す3つの選択肢(天国を経て転生、現世に魂を迷わせる、罪人を呪い殺し地獄行き)を選ぶホラーミステリー。
一方の「天間荘の三姉妹」はむしろヒューマンファンタジーだ。天間荘に宿泊する人々は、部屋に用意された人生を映し出す“走馬灯”を眺めながら、現世での生を納得いく形で全うできるまで過去を見つめる。
天間荘の人々の仕事は、それらをケアすること。新鮮なお造りや、建物のいたるところに日々生けられる花、行き届いたもてなしが評判な宿ではあるが、それ以上に宿泊者の心を迷いのないところまで導くことが重要な仕事だ。
旅館業務はまだしも、女将であるのぞみ1人では、“生きるか死ぬか迷いのないところまで導く”ことはできない。だが女将業を放棄している母親はどこ吹く風。妹のかなえも旅館の仕事には非協力的。ただ1人、たまえだけは、逡巡する宿泊客やのぞみを突き動かす要素になっていく。
孤軍奮闘するのぞみ。でもなかなか打破できないのは、この状況を本心から望んでいないからなのだろう。のぞみの花の生け方を見た天間荘の客の1人に、それを言い当てられる場面もある。
のぞみ自身は明るく、バイタリティもあり、統率力もある。でも継ぎたくて旅館を継いだわけではない。それがさまざまなエピソードによって伝わってくる。長女であるがゆえ、望まれたわけでもないのに仕事を継がざるを得なかった。彼女は考える。「自分の居場所はここでいいのか?」。旅館が閉ざされた場所であるがゆえに、選択肢がないところで人生が決まったのぞみが心配になる。