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“居場所”を見つけた大島優子 『天間荘の三姉妹』で“ある種の重み”を感じる理由とは

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

AKB48で大ブレイク 卒業後に悩まされた“大きな問い”

 のぞみを演じる大島優子は誰もが知るように元AKB48のセンターで、前田敦子と人気を二分したアイドルだ。母のすすめで7歳から芸能活動を始めたが、当時は年に1、2回ドラマなどに出演する程度で「望まれていない」のだと感じていたという。

 高校卒業を控えた2006年、17歳の時にこれで最後にしようと決意し、AKB48の2期生オーディションを受けて合格。「アイドルとは何か?」を考える暇もなく、大きなうねりに飲み込まれ、与えられた状況を無我夢中で自分のものにする努力を重ねた。

 秋元康は当時、インタビューで「子役出身の大島優子は、売れなくなるとはどういうことか分かっている。だから、与えられたチャンスを絶対に無駄にしない。どんな取材でも全力で対応するし、ファンサービスにも一生懸命だった」と語っている。

 2013年、「第64回NHK紅白歌合戦」(NHK)の放送の中でグループ卒業を発表。翌年6月8日に「味の素スタジアム」で卒業コンサートを行い、翌日「AKB劇場」での卒業公演をもってグループから卒業した。

 実質8年のアイドル活動を終え、俳優に。『紙の月』(2014)で日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞、主演映画『ロマンス』(2015)でも高い評価を受ける。だが大島は、しばらくは「AKB48でない大島優子とは何者なのか?」という問いに悩まされたという。そして2017年、米国へ約1年の語学留学。カレッジに通い、英語漬けの日々を送った。

2019年の朝ドラから大きな変化 自身の悩みを仕事に結実させる

(c)2022 高橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会)(※「高」ははしごだか)
(c)2022 高橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会)(※「高」ははしごだか)

 帰国後の2019年、英国の演出家フィリップ・ブリーンのワークショップに参加。彼の演出するドストエフスキーの舞台『罪と罰』で、大竹しのぶや勝村政信らと共演し、ソーニャを演じた。舞台をやり抜き、NHK連続テレビ小説「スカーレット」(2019)で主人公の幼なじみを演じ終わった頃から、大島に大きな変化があったように思う。

 それはそれぞれの人物像をきっちり結んで見せたドラマ、「教場」(2020・フジテレビ系)、「七人の秘書」(2020・テレビ朝日系)、「ネメシス」(2021・日本テレビ系)、大河ドラマ「青天を衝け」(2021・NHK)などからもそれは見て取れた。

 2021年には結婚。そして今年は『女子高生に殺されたい』と『とんび』、『七人の秘書 THE MOVIE』、そして本作と4本の映画に出演。その世界にいるべき人物を存在させた。

 特に、大島自身が投影されているように感じた『天間荘の三姉妹』では、のぞみという人物を、作品のテーマである「生命とは」を感じさせる仕上がりにまで持って行った。

 20代でさまざまな方向性を試すことを恐れなかった大島は、“居場所”を見つけたのだと思う。それを作品に、役に投影するのは、経験者にしかできないこと。自身の悩みを仕事に結実させた大島は、それを作品に生かすこともあれば、まったく垣間見せることもなく演じる技もすでに身につけているだろう。彼女に重層的に伝える術があるからこその、ある種の重みが楽しめる快作だった。

『天間荘の三姉妹』全国公開中 配給:東映 (c)2022 高橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会)(※「高」ははしごだか)

(関口 裕子)

関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。