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日本の紅茶が頂点に 英国で初の国際ティーコンテスト スチュワード麻子さんがレポート
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世界の審査員に和紅茶を分かってもらうために
ところが体調を崩してしまい、肝心の「日本の紅茶」部門の審査日は欠席することに。ここで思わぬことが起きました。寝込んでいる私のところに、審査会から「和紅茶に関する評価が割れすぎて審査ができない状況なので、何とか来てもらえないだろうか?」という電話が入ったのです。
日本の紅茶は「和紅茶」または「地紅茶」とも呼ばれ、最近日本では若い方にも人気が高い分野ですが、まだまだ世界に出回っているわけではありません。私が担当するUKTAの授業では英国人への和紅茶特別セミナーも人気ですが、紅茶のプロにとっては他の産地の紅茶と比べて審査が難しい紅茶です。
昔ながらの紅茶産地であるインドのダージリンやスリランカのウヴァなどには、それぞれに持つべき特徴があります。産地ならではの特徴で、ワインのテロワールのようなものです。
ですが、日本の現在の紅茶は生産者さんの作り方や目指すところによる個性が大きく、この地方ならこんな味がするべき、という決まったものがありません。紅茶作りに取り組む生産者さんは、さまざまな試行錯誤を重ねて独自の香味を作っているのです。
また、品種が大きく影響するのも日本のお茶の面白いところで、これは世界の中でも特にユニークな特徴です。ただし品名には、「べにふうき」「香駿(こうしゅん)」などの品種が多く登場しますが、外国人にはこれが何のことなのかさっぱり分かりません。
いくら目隠し審査とはいえお茶の品名は書かれますので、「べにふうき」が何度も出てくると「これは何のことなの?」と審査員は疑問に思います。それらを説明するべき私がいない状況で始まった審査が暗礁に乗り上げ中断してしまったのは、そんな事情からでした。
和紅茶について理解してもらえた!
私が何とか審査に復帰すると、「中国、台湾、ミャンマー、ベトナム、日本の紅茶」部門はやり直しになりました。
まず品種について説明し、次にそれらの品種がどのような特徴を持つか、さらに生産者はそれを生かす作り方をしていると話すと、紅茶専門の審査員たちが俄然興味を持ち始めたのが分かりました。
例えば「香駿」は桜の葉のような香りを持つ品種ですが、紅茶にしてもそれが感じられるものもあります。ただ私が伝えられるのはそこまで。後はそれぞれの紅茶の完成度が問われます。
和紅茶は知らなくても、紅茶のキャリアが長いエキスパートなら、製造上の問題点などはすぐに分かります。発酵の度合いが低すぎる、乾燥機の温度が高すぎるなどは、舌だけでほぼ瞬時に判断されるのです。香りは素晴らしくても余韻が続かない、しっかりした味が足りないなど、紅茶ファンが選ぶものとプロが選ぶものは多少違いが出てしまう可能性はあるでしょう。
特に渋みは、それを嫌う人に「あっさりしている」と好まれる紅茶もありますが、「紅茶」として評価する場合に“のど越しの良い渋み”は不可欠な要素です。また、淹れたての香りが良くても他に欠けているものがあれば、評価は高くなりません。