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「ベルばら4強」元宝塚スター安奈淳さんが語る当時 周囲が盛り立てた“のんきな子”

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・瀬谷 宏

インタビュアー:竹山 マユミ

宝塚入団の経緯とトップ就任前後のエピソードを語った安奈淳さん【写真:荒川祐史】
宝塚入団の経緯とトップ就任前後のエピソードを語った安奈淳さん【写真:荒川祐史】

 2023年で109周年を迎える宝塚歌劇団。その世界をOGたちの視点からクローズアップする「Spirit of タカラヅカ」は、新年最初のゲストとして、安奈淳さんをお迎えしました。1970年代に空前の宝塚ブームを巻き起こした「ベルサイユのばら」で人気を博し、「ベルばら4強」といわれた安奈さん。全3回の1回目は、“宿命”でもあった宝塚受験やトップスター就任時の状況などについてお届けします。聞き手は宝塚をこよなく愛するフリーアナウンサー、竹山マユミさんです。

 ◇ ◇ ◇

美術の仕事がしたかった内気な子ども 宝塚は両親の夢だった

竹山マユミさん(以下竹山):安奈さんは51期生として宝塚に入られました。今は100期生以上の方も増え、歴史を感じますね。宝塚を目指されたきっかけはどんなことだったのですか。

安奈淳さん(以下安奈):私の場合は「目指した」というよりも、両親ともに宝塚のファンで、特に母は自分が入りたかったくらい好きだったようなんですね。父も私が子どもの頃から宝塚を見せていたほどのファン。だから、女の子が生まれたら宝塚に入れようと思っていたらしくて。ですから、私が目指したわけではなく、生まれた時から両親がともに一生懸命だったみたいです。

竹山:それでは、宝塚入団は“宿命”だったということですね。

安奈:そうですね。特に父親が熱心でしたから、私の意思というのはまったくなくて。

竹山:当時は男性の宝塚ファンがそう多くなかったのではないですか。

安奈:私が舞台に立っていた頃、やはり男性のファンは少なかったですね。だから私たちの時は「今日は客席に男の人がいるよ」とか言っていましたし、男性も結構小さくなって観ていた感じです。

竹山:ある意味、大変貴重な家庭環境の中で「NO」という選択肢がなく、宝塚を目指すことになったわけですね。

安奈:そうですね。ただ、私はすごく引っ込み思案な子どもで、インドア派だったんですよ。家でピアノを弾いたり、本を読んだりして家の中にこもっていることが多くて。あと、絵を描くことが大好きでね。本当なら、ゆくゆくは絵を描くような美術の仕事をしたいと、子ども心に思っていたんです。

 でもやっぱり、両親が宝塚に入れたがっているのは何となく分かっていましたから、反抗はできなかったですね。中学に入った頃に一度だけ、実は宝塚じゃなくて美術の学校を受験したいと言ったことがあります。そうしたら、父が世にも悲しそうな顔をしまして……。その時、「これを言っちゃいけないんだ。これを言ったら親不孝になるんだ」と思って、その話を一切封印しました。

竹山:怒られたわけでもなく、反抗したわけでもなく、そのお父様の表情からすべてを悟られたのですね。

安奈:父は「そんなこと言わんとってくれ」と。そういうことを言ったので、「はい、分かりました」みたいになっちゃいましたね。

昔はのんびりしていた音楽学校 嫌いな授業に出ない時も

竹山:宝塚コドモアテネ(声楽やバレエ、日本舞踊のレッスンを行う宝塚音楽学校付属の日曜教室)に入られたそうですね。

安奈:週に一度、日曜学校みたいな感じで、小学4年生ぐらいから行っていました。

竹山:そして、舞台も観ていらっしゃったと。

安奈:もちろん舞台を観るのは大好きで、家族の一大イベントでした。うちはそんなに裕福ではなかったので、4人家族で行くと出費も多いんですよ。ですから、毎月というわけにはいきませんでしたが、3階席とかで観ていました。

竹山:そんな状況で宝塚音楽学校の入学が決まった時は、ご両親の喜びも大きかったでしょうね。

安奈:それは喜んだと思いますよ。一度受けてダメだったらもう諦めようと、両親もそう思っていました。経済的に、二度受けるような余裕はなかったですから。

竹山:試験の時は、絶対受かるんだという意気込みはかなりあったのですか。

安奈:いやまったく(笑)。必死の思いで受けたという記憶はないですね。今の受験生とは少し感覚が違うかもしれません。

竹山:音楽学校時代も、今なら考えられないような雰囲気だったそうですね。今の宝塚音楽学校といえば、厳しさでも有名ですから。

安奈:昔はのんびりしたものでしたからね。まったく厳しくなかったです。嫌いな授業は出ないで、植物園や動物園をウロウロしていましたよ(笑)。

竹山:予科と本科(1年生と2年生に相当)の先輩後輩関係はいかがでしたか。

安奈:ありましたけど、そんなに厳しい上下関係はなくて、のんきなものでしたね。お掃除もまったくしたことがありません。当時は掃除をしてくれる方がいて、こまめにしてくださっていたので。

竹山:本当に芸事に集中できるような環境だったようですね。

安奈:でも私は必死になって授業を受けた覚えもないし……。入学時は(成績が)5番で入ったんですが、卒業時は17番。15番までは努力賞がもらえるんだけど、私はもらえなかった。でも、初舞台前にあった文化祭で、主役の男役をやっていました。うちの期は男役が少なかったのでね。