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『男はつらいよ』はなぜ正月に観たくなるのか? 令和だからこそ観たい寅さん映画4選

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

奄美大島の住人も出演 疑似旅行感がある『男はつらいよ 寅次郎紅の花』

『男はつらいよ 寅次郎紅の花』 DVD 1980円(税込) 発売販売元:松竹 (c)1995 松竹株式会社(2022年12月時点の情報です)
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 第48作『男はつらいよ 寅次郎紅の花』(1995)では奄美大島が舞台となる。寅次郎がリリーさん(浅丘ルリ子)の家に転がり込んでいる設定だ。彼らの出会いは網走、2回目は函館と北海道だが、3回目は沖縄。沖縄のイメージが強いので、リリーさんは南国の景色とセットで浮かんでくる。

 寒い冬に見る奄美大島の景色は、疑似旅行感を味わわせてくれる。特にエキストラとして出演している島に住む人々。その土地の人々との交流が温かく描かれるのも正月に観たい理由なのだと思う。

 奄美大島のシーンには、さくらの息子・満男(吉岡秀隆)、満男の恋人・泉(後藤久美子)も登場。でいご丸船長としてさらっと田中邦衛も登場する。

 夜の闇に乗じて奄美島唄が聞こえてくる。歌われているのは「朝花節」という曲なのだそう。湿気のある暑い空気まで感じられるようだ。これを歌っているのはまだデビュー前の元ちとせ。歓迎パーティーで披露した島唄を気に入った山田監督が元ちとせに頼んだそうだ。

渥美清による“車寅次郎の至芸” やはり第1作『男はつらいよ』は名作

 でも『男はつらいよ』シリーズといえば、やはり第1作(1969)だ。流れるような啖呵売、芸術的ですらある体を張ったスラップスティックな笑い。渥美清が生み出した車寅次郎の至芸が矢継ぎ早に披露される。これを観なくちゃ新しい年が明けない。そんな気分にさえさせる。

 第1作で描かれる、さくらと隣の印刷工場で働く博(前田吟)の意外やドラマチックな恋愛の展開にも注目したいし、初代おいちゃんこと車竜造を演じた森川信と、渥美清のやりとりのおかしさが秀逸なのも第1作だ。

 みんなを見守る御前様(笠智衆)が住職を務める柴又帝釈天題経寺、お寺の参道で草団子を売る「とらや」、江戸川に浮かぶ矢切の渡しの船、さくらが一途に博を追いかけていった柴又駅など、プロローグを見るだけで泣けてくる風景も。

 やっぱり正月は『男はつらいよ』。『寅次郎紅の花』では、正月に満男が泉と出かけてしまった、さくら・博夫婦が「映画でも観にいくか?」と連れ立って出かけるシーンがある。もちろん観るのは『男はつらいよ』だよね? と2人の背中に問いたくなる。

(関口 裕子)

関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。