カルチャー
日本映画は「多様性」を描いているか? 役所広司主演『ファミリア』に聞こえる変化の音
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「大丈夫だよ」と言い続けた役所広司 作品にもにじみ出る関係性
レバノン系ブラジル人のワケドは、1988年にブラジルのアマゾナス州都マナウスで生まれた。母親がハーフの日系ブラジル人と再婚したことで、9歳の時に家族で訪日。そのスラリと伸びた肢体を生かし、13歳頃にブラジル人が多く所属する名古屋のモデル事務所に所属した。
インターナショナルスクール入学を機に、勉学に専念するためモデル業を中断し、愛知県立大学に進学するも、モデル・俳優を目指すことを決意して中退した。日本語、ポルトガル語、英語の3言語を話すことを武器に活躍の場を模索する。
成島監督は、マルコスを演じたサガエより実年齢が上のワケドの「『じゃりン子チエ』的にずけずけものを言う」ところが気に入ったのだそう。「マルコスをぐいぐい引っ張っていくエリカ役にちょうど良かった」と語っている。
エリカ役を演じるにあたっては、3か月にわたり演技や日本語の厳しいレッスンを受けた。「学ぶのはとても大変だったけれどもやりがいがあった」とワケドは言う。
それでも団地でのブラジル人らによるバーベキューパーティーのシーンの撮影では、うまく演じることができず、何度もテイクを重ね、時間を費やしてしまった。背景にたくさんのエキストラも参加していたシーン。1回の失敗が動かす人の多さに、さぞかし歯がゆい気持ちになっただろう。
救ったのは「大丈夫だよ」と言い続けた役所のフォローだった。撮影でブラジルを訪れたことのある役所は、ブラジルの公用語でもあるポルトガル語でいくつか言葉を披露し、ジョークを言い、「初出演の緊張をほぐしてくれた」のだという。
誠治を父親のように慕うようになるエリカとマルコスの関係性は、そんな撮影現場でのやりとりからもにじみ出ているのかもしれない。
作中に描かれる厳しい現実 乗り越える未来を期待する心
ただし失敗をしても、気弱になってしまうようなワケドではなかった。意見を述べる時は怯まずにきちんと思いを伝えた。台本ではお互い相手を「マルコス」「エリカ」と名前で呼び合うように書かれていたが、ブラジルでは恋人同士、相手を「Amor(アモー)」と呼ぶ。そのことを監督に提案し、採用されている。
映画では、そんなエリカとマルコスをとても厳しい現実が待ち受ける。ただしそれを乗り越える未来を期待するからこそ本作は作られたのだ。ワケドは自身のインスタグラムアカウント(fadilewaked)で、『ファミリア』をこんな風に紹介している。
「日本に住んでいるブラジル人の悩み、頑張りなど素敵なストーリーを映画で見られます! エリカはとても強いブラジル人の子で、たくさんのドラマに関わります!! みんなぜひ観てください」
ワケドが今後演じる役に期待したいと強く思った。そして他の在日外国人俳優すべてが多様性を感じられるような役を得て、活躍できることにも。ワケドの存在に、在日ブラジル人の未来のあり方も、ゆっくりだが変化していく音が聞こえたような気がした。
『ファミリア』新宿ピカデリーほか全国公開中 配給:キノフィルムズ (c)2022「ファミリア」製作委員会
(関口 裕子)
関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)
映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。