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仕事・人生

影響を与える人になりたい…障害者野球からパラやり投げ選手へ 転向にあった思いとは

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・佐藤 直子

「もがいている自分も含め、何か生きているなって」

アンナ:当時はまだ大学生ですよね。

山崎:東京国際大学に通っていましたが、駅伝部はあっても陸上部がなかったんです。だから毎週日曜日は、埼玉県鶴ヶ島市の実家から千葉県酒々井市の順天堂大学まで、片道2時間半かけて通う生活を2年余り続けました。さすがに遠かったです(笑)。

アンナ:ですよね(笑)。実際にやってみて、やり投げは難しかったですか。

山崎:むちゃくちゃ難しいですね。最初はまっすぐ投げられませんでした。

アンナ:ボールを投げるような感覚かと思っていました。

山崎:僕もそう思っていましたが、槍は全長2.7メートルと長いので、ボールと同じ感覚で投げると槍が横を向いて、自分の頭に当たってしまうんです。長い槍に力を伝えるには、体全体で投げなければいけません。最近ではプロ野球選手がやり投げに似たジャベリックスローを練習に取り入れているようで、オリックス・バファローズの山本由伸投手はきれいに投げますよね。

山崎選手の話に聞き入る美馬アンナさん【写真:荒川祐史】
山崎選手の話に聞き入る美馬アンナさん【写真:荒川祐史】

アンナ:ちなみに、山崎選手はどのくらい飛ばすんですか。

山崎:60メートルくらいです。

アンナ:うわ~すごい! ただ、そこまでいくには大変でしたよね。

山崎:最初の2年間はずっと体作りでした。人が3回やればできることを、僕は10回やらないとできないタイプ。でも、そこで20回やろうとするのが自分の持ち味だと思っています。

アンナ:うちの夫と同じタイプですね。天才肌ではない努力型。友達になれると思います(笑)。

山崎:美馬投手と身長が同じくらいなので親近感があります(笑)。やり投げもフィジカルが大事。190センチくらいある選手に勝つためには、人一倍フィジカルトレーニングをしなければいけないし、骨が短い分、関節の柔軟性などを上げるためのエクササイズを毎日しています。

アンナ:そのモチベーションはどこから来るのでしょう。

山崎:パラリンピックという目標に対して挑戦していることが、楽しくて仕方なかったんですね。「影響を与える人になりたい」という目標がなければ、やり投げはやっていないでしょう。東京パラリンピックという存在が大きくて、その舞台のために毎日生活するという過程が楽しかったです。結果が出ない時はめちゃくちゃ苦しいんですけど、そうやってもがいている自分も含め、何か生きているなっていう感じがするんですよね(笑)。

アンナ:根っからのアスリートですね(笑)。

<後編に続く>

◇山崎晃裕(やまざき・あきひろ)
1995年生まれ、埼玉県出身。先天性右手関節部欠損で右手首から先がない障害を持つ。小学3年生から野球を始め、中学校では二塁レギュラー、山村国際高校では硬式野球部で投手。高校3年生の夏、県予選3回戦で代打として逆転打を放ち勝利に貢献した。引退後は障害者野球に転向し、東京国際大学1年時に日本代表として世界大会で準優勝。その後、パラリンピック出場を目指してパラやり投げに転向。東京パラリンピックではF46クラスで7位に入賞した。現在は順天堂大学の職員。

(Hint-Pot編集部・佐藤 直子)