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自給自足生活への関心が高まる米国 「命をいただく」暮らしで感じた“生きる本質”とは

公開日:  /  更新日:

著者:小田島 勢子

家で生まれたチャボと卵を孵化させたお母さんの烏骨鶏【写真:小田島勢子】
家で生まれたチャボと卵を孵化させたお母さんの烏骨鶏【写真:小田島勢子】

 ナチュラリストの小田島勢子さんは米ロサンゼルス在住。夫と娘3人、鶏、犬たちと暮らし、築70年になる平屋の小さな家の庭で少しずつ家庭菜園を広げています。都会の中でも自然とふれあう生活を送り、“自分らしい暮らしとは何か”を日々見つめているそうです。今回はコロナ禍以降、米国で支持者が増えている「ホームステディング(自給自足)」と「プレッピング(食物を保存、貯蔵すること)」という暮らし方についてご紹介します。

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世界情勢や自然環境の変化を身近で感じるようになった近年

 干ばつや洪水、戦争に新型コロナウイルス。世界的に食料や資源の供給が滞り、特にここ数年の環境問題や自然災害は、今までずっと遠いところで起きていたような感覚が、より私たちの暮らしのすぐそばにあるという感覚に変化したのではないでしょうか。

 特に食料と生活用品の不足、値段高騰は、引き続き世界情勢や自然環境の変化に伴い、さらに深刻になるといわれています。

 日本ではここ数年、都会から地方へ移住して畑で野菜を育てる人が増え、獣害によって駆除された動物たちをジビエ料理として提供する飲食店も増えたと聞きます。これから自分たちの人生をできるだけ自らの力で、そして今ある資源をできるだけ無駄なく有効活用して生きていくサバイバル能力が、今まで以上に必要とされる時代になりました。

自給自足の意識が高まっている米国

 ここ米国でも近年、「ホームステディング(homesteading)」という、いわゆる自給自足の生活を実践する人が増えてきました。地方に引っ越し、大規模に畑での生産活動や動物の飼育を始める人もいれば、都会でも家に近い場所で土地を借り、野菜を育てる人もいます。

 さらに「プレッピング(prepping)」という、必要な食料や物資をできるだけ保存したり、備えたりすること(採れた野菜を瓶詰にする、乾燥させる、穀物を長期保存するなど、蓄えるためのノウハウを知り生活する)への意識も高まっています。

 数年前の外出禁止令(ロックダウン)や、近年の戦争と自然災害による食料や燃料の値段高騰など、想像すらしていなかった突然の危機的状況。そんな中で、便利に発達した現代社会への高い依存度に改めて気づいたことが、自らのライフスタイルや自活能力を見直すきっかけになった人も多かったのではないでしょうか。

畑に野菜がない時期は雑草(ハコベ)でキムチを作る【写真:小田島勢子】
畑に野菜がない時期は雑草(ハコベ)でキムチを作る【写真:小田島勢子】

 私自身、鶏との生活はこの家へ越してきた十数年前に始めましたが、本格的に庭でのコンポストや畑での野菜作りに取り組み始めたのは、コロナによるロックダウンの頃でした。

 必要な時にいつでも手に入れることができた今までから、家から出られなくなったり、出られても必要なものが手に入らなくなったりするという日常の一変は、人々を不安やストレスで包みました。

 そんな中、我が家で何も変わらなかったのは、裏庭の動植物たちの姿でした。鶏は変わらず庭の雑草や虫をついばみ、卵を産み、オレンジやグレープフルーツ、ブドウや雑草は太陽の光を浴びて成長し、時折遊びに来る鳥やハチたちは以前にも増して生き生きと見えました。この時に私は、生き物のたくましい生命力を改めて見せてもらった気がしました。