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『イチケイのカラス』映画版も期待十分 黒木華の東大法学部出身エリート役が光る理由

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

(C)浅見理都/講談社 (C)2023 フジテレビジョン 東宝 研音 講談社 FNS27社
(C)浅見理都/講談社 (C)2023 フジテレビジョン 東宝 研音 講談社 FNS27社

 若手演技派の1人としてキャリアを重ねている黒木華さん。この連載で2021年9月に主演映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』をご紹介した後も、数々の映画やドラマに出演しています。そして2023年は、“東大法学部出身のエリート”を演じたドラマの映画版『イチケイのカラス』が登場。“周囲の意見に耳を傾けることができるエリート”という役柄が、黒木さんによってリアリティが出ていると語るのは、映画ジャーナリストの関口裕子さんです。「法の下の平等」「正義とは何か」という今まさに注目すべきテーマと合わせて、解説していただきました。

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正義を貫こうとするリーガルドラマ 待望の映画版

「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」。日本国憲法第十四条に定められている“国民の権利”だ。

 にもかかわらず、この権利が守られない事件も多い。そんなもやもやを抱える我々の気持ちをスカッと晴らしてくれたドラマが「イチケイのカラス」(2021・CX系)。全11話の平均視聴率は12.6%。そんな人気に応えるように作られたのが現在上映中の映画版だ。

 舞台となるのは、東京地方裁判所第3支部第1刑事部、通称イチケイ。ここに所属する刑事裁判官たちが、一筋縄にはいかない難しい裁判に挑み、人間味のあるやり方で法の下の平等、正義を貫こうとするリーガルドラマとなる。

 自由奔放で型破りな刑事裁判官・入間(いるま)みちお(竹野内豊)と、イチケイに異動してきた真面目で効率性を重視する若きエリート裁判官・坂間千鶴(黒木華)が、互いの主張を貫きつつも相手を尊重することで、より深い判決を導くようになっていく。

 本質を重視し、形式にとらわれないみちおに対し、生真面目で杓子定規な坂間。1つの“正義”を導き出すのがそんな正反対な2人だからこそ、異なる価値基準からスタートした難題でも、答えとなる正義は1つなのだと安心し、視聴者は溜飲を下ろすことができるのだと思う。

周囲の意見に耳を傾けるエリートキャラ 黒木が与える現実味

 みちおの決め台詞は「裁判所主導で職権を発動します」。訴訟進行の主導権を裁判所が持つという告知なのだが、実際には「イチケイのカラス」ほど頻繁に発動されることはないようだ。この場合、ドラマの展開において「遠山の金さん」の桜吹雪の刺青、「水戸黄門」の印籠的な役割を果たすものと考えた方がいいのかもしれない。

 このドラマにおける坂間はとても魅力的だ。東大法学部出身のエリートで融通のきかない坂間。当初は最高裁判所判事(草刈民代)に、裁判の処理件数が極めて少なかったイチケイの立て直しを頼まれ、特例判事補として赴任してきたのだが、みちおや彼の師事する総括判事の駒沢義男(小日向文世)に影響され、合理性だけで裁判は行えないと独自の方法論を模索し始める。

 坂間が魅力的だと思うのは、すでに自身の基準となる思考を固めていながら、周囲の意見にも耳を貸し、より良い形に修正していくところ。実はこれ、なかなかできることではない。「ドラマだから」と言ってしまえばそれまでだが、黒木華が演じると、そんな周囲の意見に耳を傾ける余地を持つという設定が現実味を帯び始めるのだ。

 それはたぶん黒木のキャラクターが坂間という人物に近いからではない。演出の田中亮は、普段の黒木を「和やかで柔和」だという。せっかちかつ論理的にまくし立てる坂間とは大違い。現実味を帯びる理由はむしろそんな黒木があえてあげた坂間との共通点にあるのだと思う。「“本気でやる”を大切にしているところ」という。それが伝わってくるから我々は、彼女の魔法にかかってしまうのだ。