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『レジェント&バタフライ』綾瀬はるかの見どころは? 演じた濃姫とダブる部分も
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主演の木村拓哉さんが「ぎふ信長まつり」に参加するなど、昨年から話題を呼んでいた東映70周年記念作品『レジェンド&バタフライ』。織田信長を描いたこの作品は、誰もが知る武将に新たなイメージを与える作品になりそうです。もちろん、妻の濃姫を演じる綾瀬はるかさんにも大きな注目が。武将の伴侶をどのように演じるのか、期待しているファンも多いでしょう。映画ジャーナリストの関口裕子さんによると、綾瀬さんにはこの映画で描かれる濃姫とダブる部分があるのだとか。作品の見どころや綾瀬さんの個性について解説していただきました。
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織田信長と濃姫が夫婦になっていく姿を描く
歴史ものは面白い。その時代に生きたさまざまな人のおかげで現在があると、改めて強く感じることができるからだ。
そんな歴史ものを観ていると、日本人の我慢強さに驚くことがある。特に寒さに関して。暖房に消極的なだけではなく、日本家屋は気密性も低かった。雪降る夜に心を寄せる姫のいる部屋の御簾の中に上半身だけ差し入れて、恋の歌を贈るなどという「源氏物語」の“ラブシーン”など、たぶん想像を絶する寒さだったろう。
なぜそんなことを思ったかというと、大友啓史監督、木村拓哉主演『レジェンド&バラフライ』を観たから。同作は、戦国時代においてリーダーシップをとることを余儀なくされた織田信長と、政略結婚で信長に嫁ぎ、有能な軍師として彼をサポートする濃姫が、夫婦になっていく姿を描いた東映70周年記念作品だ。
信長が天下統一のシンボルとして琵琶湖の東岸(近江国:現在の滋賀県近江八幡市)に建てた安土城の庭でのシーン。残雪が見える中、出ていく濃姫を見送るため、信長は外廊下を走り出てくる。裸足だ。「いや、寒いだろう」。思わず心の中でつぶやいた。
でもこのシーンには寒さが必要だった。濃姫を柱の陰で見送りながら、信長は寒さに耐えているのだとカムフラージュするように短刀の柄を噛む。相手を思い、気持ちのすべてをつまびらかにしない我慢強さ。その姿からは寂しさと悔しさ、そして強い愛が感じられた。
文武に秀でたやんちゃな濃姫に 小気味良く演じる綾瀬
信長は尾張国(現在の愛知県)の出身。濃姫の父である斎藤道三は隣国の美濃国の武将。駿河国及び遠江国(静岡県)の武将であった今川義元を牽制する意味もあり、信長は濃姫を正室として迎える。
その濃姫を演じるのは綾瀬はるか。濃姫の史料がほとんど残っていないのを逆手にとって、文武に秀でたやんちゃなキャラクターと設定している。この綾瀬演じる濃姫が小気味良い。
舌鋒鋭い濃姫に、たじたじとなる信長の演技には爆笑してしまった。冒頭の祝言のシーンでは、初夜を迎えた閨で信長と壮絶なバトルを繰り広げる。寝着で待つ濃姫の前に、袖のない着物に赤い腰紐を締めた“例の恰好”で現れる信長。
「酒を注げ」、「肩を揉め」と居丈高に振る舞う信長に、「輿入れで疲れているのは私の方。私にこそ労うべき」と返したのを発端に、「分をわきまえないおなごは嫌いじゃ」、「わらわも愚かな殿方は嫌いでございます」と舌戦が繰り広げられる。
濃姫が、「まるで童(わっぱ)じゃ。ただの童。醜し」と吐き捨てるように言うと、今度は鞘を払い、斬りつけようとする信長。ここから2人の身体能力を活かした取っ組み合い(アクションシーン)が始まるのだが、大友監督はかなり長い間、カットをかけなかったという。
負けを認めることが何より嫌なはずの信長が、ついには「出あえ、出あえ」と家臣を呼ぶ。すると侍女として美濃からおともしてきた各務野(かがみの)(中谷美紀)が転がり込み、濃姫のおしりをぺんぺん叩いて叱る。それでもカットはかからず、シーンの終わりには中谷の打掛も、綾瀬の着物もかなり破けていたとか。
完成版では、残念ながら各務野を交えた三つ巴の取っ組み合いの前で場面が変わってしまう。早いテンポで描かれるこの爆笑シーンによって、『レジェンド&バラフライ』とはステップスティックなヒューマンコメディでもあるのだと納得した。